もうひとつ、舐められたり、収拾がつかなくなったりしてしまう状況に見られる共通の要素が表情だ。ほとんどのケースで、異論や反論に接した場合に、あわてふためいているか、目の色や顔色に不安の気配を感じさせてしまっているのだ。
「そんなはずはない。毅然として言い返している」と自分で思う人は多い。だが、異論や反論に接した際のリアクションを自撮りして確認する演習をすると、一目瞭然だ。言葉では明快に言い返していても、そのさまが相手には慌てているように見えたり、目が泳いだり、顔色が変わったり、不快な表情を見せている。そうした表情の変化が、舐められたり、収拾がつかなくなってしまう源泉なのだ。
目の色や顔色に出さないようにするということは、能面になるということでもないし、自分の本心が見透かされないようにポーズをとるということでもない。リアクションの型を身につけることだ。舐められない人は、「リアクションの型」をもっている。
柔道の受け身の型と同じだ。相手のパワーをそのまま受けて跳ね返すのではなく、相手のパワーを吸収して、自分にダメージを与えないための受け身の型だ。それも、さほど難しくない方法で、数回反復演習すれば身につけることができる。その方法は次回紹介するので、是非試していただきたい。
「舐められるな」「自信を持て」「顔色に出すな」と何度心掛けても、実現するのは難しい。それよりも、舐められないためには、慌てないことだ。そのためには、リアクションの型を身につけて、繰り出すことができるようになれば、自然と慌てることが少なくなり、舐められる度合も小さくなる。
型を身につける過程で、最初はぎこちないと思うかもしれないが、数回反復演習をすれば板についてくる。そして、あるときから、あまり意識しなくても繰り出すことができるようになる。そうなればしめたものだ。その頃には、舐められない状況になっていることを請け負う。
【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第112回】
【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『
チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『
クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある