直接やりとりをするのはトラブルを防ぐという面だけでなく、効率的な議論を行うという意味も込められている。
たとえば、「会場の後ろのほうの人はバトルの様子が全然見えなかった」というツイートに対し、「詳しい話を聞かせてもらえますか?」などとリプライを送っていれば、外野からもさらに意見が飛んできて、議論は進みづらかったはずだ。
「あと、あまりにナメたことを言ってるヤツにもDMを送りますね(笑)。その場合も、晒されても問題ないように、丁寧な文章が基本です。場合によっては電話番号も伝えて、『話を直接しましょうよ』と提案することもありますね」
自分が何となくつぶやいた悪口に対し、丁寧な態度で反応をもらったら、大半の人は「何も考えずにいい加減なことを言ってしまいすみませんでした」と謝りたくなるだろう。DMでのやりとりは、不平不満を掬いあげるにも、納得の行かない悪口や罵倒に対処するにも有効なわけだ。また、DMのやりとりを通じて、不満を言っていた人たちと仲良くなることもあるそうだ。
「ツイッターで生意気な意見を言っている若いコのなかには、本当にMCバトルが大好きで、大会を熱心に見てくれている人もいるんです。そういう人とは仲良くなって、『今回の大会のベストバウトはどれがいい?』『次の大会のメンバー、こんな感じで考えているんだけどどう思う?』と意見をもらうこともありますね。今ではツイッターで知り合った10代後半〜20代前半のコたち8、9人を集めて、みんなで議論をできるLINEグループも作っています」
不平不満を言っている人たちも「仲間」として内側に取り込んで、直接意見をもらえる関係にしてしまう。そうすれば、「多くの人に見える場所で不満を言われる可能性が減る」「彼らの声を運営の改善に活かしやすくなる」といったメリットがあるわけだ。
「だから前は、ツイッターで大会について意見をしている若いコを積極的にスカウトしていましたね。やっぱり20歳前後のコたちと自分だと、大会の見え方も違う。意見を聞くと『あー、そういうふうに思う人もいるんだ』と感心することも多いんですよ」
客側の意見を“クレーム”の一言で片付けるのではなく、イベント運営の糧としていく。諸刃の剣ともなりうるSNSだが、無限の可能性を秘めているのだ。
<構成/古澤誠一郎>
【MC正社員】
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く