Google最新技術「BERT」と「東ロボ」との比較から見えてくるAIの課題

AIが人類を超える日が近づいているという誤解

「BERTの読解力が人間を上回った」、「東ロボが有名私立大学合格可能性80%を達成した」といった情報を目にして「AIが人類を超える日が近づいているんだなぁ」と感じられる方も多いようですがそれは誤解です。私は今のAIと言われている技術を人間と比べること自体に意味が無いと思っています。  まず「BERTの読解力が人間を上回った」という言い方は誤解を招いていると思います。正確には「特定の定められたシナリオで人間より精度の高い結果を出した」に過ぎず、この結果を持って人間の汎用的な読解力と比較することは出来ません。ガス漏れ検知器は人間よりガス漏れ判断の精度は高いですが、それを持って「ガス漏れ検知器は人間の判断力を上回った」と言わないのと同じです。  東ロボが挑戦している東大入試は、実際に人間が取り組む活動なので、機械学習の評価を前提としたベンチマークよりは現実的ですが、入試は多様な人間の活動のほんの一部であり、比較的簡単な部類に入るものになります。この結果を持って人間の汎用的な能力と比較するのは妥当ではありません。  「東大入試」は目的、ルールは予め決まっており、行動の選択範囲も非常に限定されています。具体的には、合格という目標、試験のルール(制限時間、カンニング不可など)は予め決まっています。行動の選択範囲も限定されています、文字もしくは記号で回答を記入する、という決められた枠組みの中での選択となっています。受験生やAIがやっているのは決まった目標、ルールに従い、定められた枠組みの中から最適な選択肢を選定するという作業なのです。  一方、「昼休みに何するか?」という私たちが日頃簡単に行なっている活動は実は複雑です。  まず目的を自分で決める必要があります。「空腹を満たす」、「私用を済ませる」、「仮眠を取る」、「医者に行く」などなど数ある候補の中から、自分の選好に従って選択を行う必要があります。また、昼休みは12時~13時というルールが決まっている場合も我々は必要に応じてそのルールを変更します。「来客対応で時間をずらす」、「通院のため延長する」、「仕事のため返上する」、などです。  また、そこから生まれる行動の選択範囲も膨大です、その中から適切な選択の枠組みを作る必要があります。これらの手順を経た後に初めて、枠組みの中から最適な選択肢を選定するという作業ができるのです。  今のAI技術にできるのは目的、ルール、選択の枠組みが決まった状態で、最適な選択肢を選ぶための情報を提供する部分だけです。『人間に選択肢決定の判断材料を提供する新しい道具』というのが今AI技術に対する適切な位置付けといえるでしょう。  我々が考えるべきはこの道具をいかに効果的に活用するかであり、その性能を人間と比較して一喜一憂するのは意味がないと思います。またこの状況で将来的に進化したAIが人類を超えた時の影響について議論するのは、エイリアンが攻めてきたらどうするのかについて議論するのと同じくらい無意味だと思います。  人類を超える可能性を持ったAIが存在するのはまだSFの世界だけなのです。 ―――――――――――― 参考文献 [1]Jacob Devlin Ming-Wei Chang Kenton Lee Kristina Toutanova 2018.BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding arXiv:1810.04805 https://arxiv.org/abs/1810.04805 [2]Guokun Lai, Qizhe Xie, Hanxiao Liu, Yiming Yang, and Eduard Hovy. 2017. RACE: Large- scale reading comprehension dataset from examinations. arXiv:1704.04683 https://arxiv.org/abs/1704.04683 [3]Kai Sun, Dian Yu, Dong Yu, Claire Cardie 2018. Improving Machine Reading Comprehension with General Reading Strategies. arXiv:1810.13441 https://arxiv.org/abs/1810.13441 [4]戸田山和久(2014)「哲学入門」ちくま書房 [5]イーヴァル・エクランド(2018)「予測不可能性、あるいは計算の魔――あるいは、時の形象をめぐる瞑想」みすず書房 <文/鳥谷健史> とりたにけんし●日本アイ・ビー・エムに入社し、システムエンジニアとして活動。退社後はフリーのITコンサルタントとして活動中。企業へのコンサルティング活動を行う傍、技術コミュニティー技術コミュニティー”越境するテクノロジー”やセミナー”ゼロから始める機械学習”を主催
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