空爆されたイドリブ県の市場。アサド政権によるイドリブ県総攻撃は一時的に回避されたが、いつ攻撃が始まるかわからない状況だ
シリアの「大虐殺」は、国連やNGO、メディアの監視が必要
シリア各地で起きた反政府デモに対して、アサド政権が武力弾圧を始めたのが’11年3月。以来、シリア内戦は現在まで続いている。安田さんが伝えようとしたシリア内戦とはどのようなものなのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に聞いた。
黒井文太郎氏
「シリア内戦、21世紀最大の大虐殺です。在英NGO『シリア人権監視団』の今年3月の報告では、身元・死因が特定された犠牲者は約35万4000人。その他、刑務所内で殺されたとされる行方不明者が約4万5000人、それ以外の不明者が約1万2000人います。把握できていない犠牲者も約10万人規模で、犠牲者総数は約51万人と推定されています」
犠牲者のほとんどが、アサド政権側の攻撃によるものだと黒井氏は言う。
「アサド政権は、反体制派ゲリラのいる地域を空爆・砲撃して街ごと破壊しています。『たる爆弾』と呼ばれる大型爆弾や毒ガスなどの化学兵器も躊躇なく使う。民間人犠牲者の約9割が、アサド政権側によって殺されたと言えます」
この状況に大きな影響を与えたのがロシアの介入だ。
「’15年9月のロシア介入以前は、アサド政権は事実上の敗北宣言をするほど反体制派に追い詰められていました。ところがロシア軍の空爆で、アサド政権は一気に形勢逆転。欧米もロシア軍と衝突するわけにはいかず、軍事介入できなくなりました。現在、反体制派のほとんどがシリア北部のイドリブ県に追い詰められています。今年9月、反体制派と関係が深いトルコと、アサド政権を支援するロシアがイドリブ県に非武装地帯を設けることで合意し、危機は一時的に回避されています。しかし今後、アサド政権がイドリブ攻撃を始めない保証はありませんし、アサド政権は反政府デモへの参加者など数百万人分の逮捕者リストを持っているとも言われます。国連やNGO、メディアなどがシリアに入って監視することが、虐殺を止めるために重要なのです」
― 安田純平、激白120分 ―
<取材・文/志葉玲 写真/時事通信社>