パワハラはどうすれば減らせるか? アンケートや社内報での啓蒙は効果薄

 人の心について研究している「心理学」は多くの悩みを解決できるのではないかと筆者は考えている。  アドラー心理学で知られるアルフレッド・アドラーは「人生のすべての悩みは対人関係である」と言った。実際、コミュニケーションに限らず、マーケティングもウェブデザインも、自己実現方法も、突き詰めると対人関係における問題解決の手法である。

世界一不安を感じやすい日本人

photo via Ashinari

 筆者が「心理学」を武器に活動していると、さまざまなタイプの相談をいただく。たとえば、今回ご紹介するパワハラ問題も、そのひとつである。  現在、テレビ東京で放送中のドラマ『ハラスメントゲーム』をご存知だろうか? 唐沢寿明さん主演のドラマで、スーパー業界大手老店舗のコンプライアンス室室長に任命された主人公が、社内で起こるハラスメント問題を次々に解決していくドラマである。  原作小説を読んでみたが、内容がとてもリアルで、視聴者の身の回りでいつ起きてもおかしくない、または、既に起こしてしまっている可能性があるハラスメント問題が多く取り上げられている。  ’16年に厚生労働省が行った調査によると、「過去3年間にパワハラを受けたことがある」と回答した人は32.5%。約3人に1人はパワハラ被害を受けたことがあるということがわかっており、その割合は4年前の25.3%から7.3%も増加している。  さらに、パワハラ被害を受けたと感じた人のうち、40.9%の人は「何もしなかった」と回答している。これは、「何も解決しないと思ったから」「職務上不利益が生じると思ったから」と思っていることが原因のようだ。また、社員数が少ない会社の人ほど、社外の人に相談する場合が多く、社内のパワハラの実態が掴みにくくなっている。  実は遺伝子的な観点においても、日本人は世界一不安を感じやすいという研究結果も出ている。日本人は「セロトニン」という安心感ややる気を出すために必要な神経伝達物質の量を調整するためのセロトニントランスポーターが世界的に見ても少ないため不安を感じやすく、結果としてうつ病になりやすい傾向にあるそうだ。  そういった状況にあるにも関わらず、日本人はストレスの原因を溜め込んでしまっている。  これを受けて企業側もさまざまな対策を行っている。たとえば、相談窓口の設置や「管理職向けのパワハラについての講演・研修」「アンケート調査」「社内規定への記載」など。このなかで、もっとも効果が高く実感された取り組みが「管理職向けのパワハラについての講演・研修」、続いて「一般社員等向けのパワハラについての講演・研修」だという。 「就業規則への盛り込み」や「アンケート調査」、「ポスターによる啓蒙活動」「社内報で話題に上げる」ことは、講演や研修ほど高い効果を発揮していないのだ。  つまり、パワハラ問題を解決するならば、社内でできることから解決するのではなく、専門家の力を借りることが重要となる。
次のページ
仲間の不調に気づける環境が必要
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会