再び暗躍する「地面師」。その巧妙な劇場型手口

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“本物の偽造書類”をなりすまして発行

 では、実際に彼ら地面師はどのようにして巨額のカネを騙し取るのだろうか。数億円の資金を出す業者は中堅から大手の業者に限られるため、いきなり「売ります」と言っても相手にされない。そこでまずエサを撒く相手が、不動産の仲介業者だとK氏は言う。 「ヤツらは売買金額に応じた仲介手数料で稼ぐ商売をしているから、カネになる物件を血眼になって探してる。そういった連中にそれとなく情報を流すんだよ。『西新宿3丁目の土地、あれ、ついに地主が売る気になったみたいだよ。実は息子が事業に失敗して……。その息子と取引してた業者が知り合いで、相談受けてるんだよ』なんて話をして。あとは引っかかるヤツを待つだけ」  仲介業者がネタに食いつき、取引のある大手の業者に話を回せばいよいよ仕上げに入る。“劇団員”の手配である。 「オレオレ詐欺やヤミ金をやってるヤツに頼むと、適役をすぐに用意してくれる。所有者役によく使われるのは中小企業の社長やスナックのママ。さすが社長をやってるだけあって、イイ服着せると見栄えがいい(笑)。スナックのママは話がうまいから、重宝するんだよ。場合によっては所有者の息子夫婦や甥や姪だったり、所有者の部下に背乗りするヤツらを手配することもあるな」  背乗りとは身分や戸籍を乗っ取り、本人になりすますことだ。偽造の免許や印鑑登録証を作り、それぞれの役になりかわってマイナンバーカードやパスポートなどを作る。一つでもいいから本人確認で使える本物の書類を作ることができれば、それを使ってあらゆる本人確認書類を作ることができるからだ。こうして“本物の偽物” が誕生するのである。 「第一関門は買い主側の仲介業者をいかに騙すか。いかに怪しまれずになりすまし役に接触させないようにするかも重要だ。場合によっては司法書士や弁護士を立てることもあるけど、なにしろ出す書類は“本物”だからね」  買い主側の仲介業者も本物の書類を用意されている以上、多少怪しかろうとも、ここは信じざるをえない。問題は次の「対面による本人確認」の場面だ。K氏が知る中でもっとも腕利きの地面師の、鮮やかな手口はこうだ。 「仲介業者が家に来ることになったんだ。そしたら、『駅に着いたら電話くれ』って言って、仲介業者が家に着く時間を見計らい、本物の家の前で待ち構えてなりすまし役に対応させたんだよ。それで車のエンジンをかけっ放しで仲間を待たせておいて、仲介業者がなりすまし役と話そうとした瞬間、『ゴルフ間に合わないよ!』ってせかせてニセ所有者を車に乗せちゃう。仲介業者が近所のヤツらに聞き込みをするかもしれないから『君らも駅まで送るよ』って車に乗せて一丁上がりだよ(笑)」  まさに劇場型である。こうして売買契約までこぎ着ければ、あとは“本物の土地権利証”を作成し、司法書士立ち会いのもと決済を行い、事件は完結する。
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委任状があればOKな仕組みを利用
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