尾根を一つ越えて隣の東地区(地形図上の地名表記)にゆくと、ここは堤防のない無堤集落です。ただし、集落は標高34m前後にあります。
この集落にはNTT西日本森山電話交換所がありますが、肱川大水害によって冠水し、機能を失いました。復旧には8月に入るまでかかったようです。(参照:
大雨による通信サービスへの影響について(第20報)2018 年7 月12日NTT西日本)
NTTの無人電話交換所は、たいへんに高い抗堪性を持っており、冠水して機能を喪失するという事態は珍しいことです。実際に機器は3m近く嵩上げして設置されていましたが、洪水はそれを凌駕していたことになります。この地点では水は標高38mまで上がっていたと考えられ、交換所の機器は、1~2m冠水していたと考えられます。
NTT森山電話交換所。水没したために一帯の電話が不通となった。左は、倒壊した建設資材倉庫。 2018/10/20撮影
隣の木材倉庫は倒壊していましたが、その状態で営業中です。この一帯の家屋は二階まで浸水しており、大きな傷跡を残しています。
更に東進し、大成橋から700mの地点に国土交通省大川水位観測所があります。この観測所の詳細な資料は
公開されており、これによって大川地区の標高、堤高などが確認できます。
大川水位観測所の斜め前に旧大石邸があり、一階全没であったことがはっきりと分かります。したがって大川水位観測所の地点で3m以上の浸水であったことがわかります。そして大川水位観測所の標高は、35mですので洪水時の最高水位は38m強となります。水位標のゼロ地点標高が26.5mですから、当時の氾濫水位は、11.5m強で約12mとなります。
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旧大石邸。 かつて醤油屋だった古民家。1階全没で3m強の浸水。直近に国土交通省大川水位観測所がある。2018/10/20撮影
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旧大石邸の標高は、大川水位観測所とほぼ同じであるため、国交省HPから、標高35m強とわかる。したがって、この地点では、水位12mまで上がっていたことがわかる
今回の水害を基準にすると、この一帯の堤防は8m以上必要で、実際には1m程度の余裕がなければ破堤の危険がありますので、大川地区の堤防は4mの堤高不足ということになります。
これにより、無堤地区の存在と合わせて
治水計画が極めて甘かったという結論になります。下流がこのような状態では、上流のダムの洪水時の制御は困難になり、結果として操作手順が大規模洪水時に対応できないものとなります。(参照:
【西日本豪雨】愛媛の2ダム規則、豪雨に対応せず 放流量抑制、8年に改定 2018/7/30 産経新聞)
今回は大川地区についてご報告しましたが、次回は極めて甚大な被害を出し、死者も発生した菅田(すげた)地区についてご報告します。
そこには、取材中の私が声を失うほどに想像を絶する肱川治水事業のあまりにも、あまりにも無残な実態がありました。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第3シリーズ水害編-4
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定