在タイの元J2選手が語る「タイ・リーグ」での選手生活

元J2選手の元にも舞い込む相談

 かつて選手として活躍し、その後バンコクの不動産会社「ディアライフ」にて営業担当をしている伊藤琢矢氏も選手のビザについてこう語った。 「なぜか知らないですが、ビザに関係する相談を毎年、何人かの現役選手から受けます。確かに自分もビザについては苦労しました。しかし、解決策はいまだにわかりません」
伊藤氏

第一線は退き、不動産会社で働くものの、サッカーとは関わり続ける伊藤氏。(伊藤氏提供写真)

 伊藤氏曰く、アジア・チャンピオンズリーグを目指しているチームはサッカー協会やFIFAの審査があるため、比較的きちんとしている印象だという。伊藤氏がプレーを始めたのは2011年からの数年間で、日本人選手がタイのリーグに注目し始める黎明期でもある。このころは先の支払いやビザの問題は日常茶飯事だった。  ここ数年は幾分マシになってはいる。ほかのタイのサッカー事情に詳しい人からも「タイ・リーグ運営側がクラブライセンス発行条件を厳しくしているので、かなりよくなった」という証言を筆者は得ている。  伊藤氏は相談を受けたら、自身が今置かれている現状を話し、「以前はこんなことがあって(自身は)もっと苦労した。今はまだマシだから、もうちょっとがんばってみな」と伝えているという。

元選手が語る「タイ・リーグ」での選手生活

 伊藤琢矢氏は賃貸住宅の仲介会社に勤めながら、同社が運営するサッカースクールのアドバイザーも行う。同スクールは2018年から「セレッソ大阪サッカースクール」のバンコク校となった。選手としての現役は退いたものの、サッカーとは今も関わり続けている。月に数回は指導者としても活動し、子どもたちに夢を託す。  そんなタイのサッカー業界だが、日本人選手には希望を持てない世界なのだろうか。伊藤氏にJリーグとの違いを訊いた。 「タイのビッグクラブはスタジアムや練習環境が整備されていて、Jクラブと遜色はありません。しかし、そのようなクラブは未だ数チームしかないという印象です。地方へ行けば行くほどスタジアムは老朽化していて、芝生も雑草のような環境、照明も暗いところが多いかな」  東南アジア特有のいい加減さにも選手として厳しい環境だったそうだ。しかし、気の持ち方次第で徐々に自身に変化をもたらせたとも伊藤氏は回顧する。 「試合スケジュールに合わせてサプリメントやプロテインを摂取したり、身体をメンテナンスしたりしていました。でも試合当日にいきなり試合開始時間が変更になったり、遠征に行ったのに試合が延期になったりしましたね。いい加減なタイの環境に触れて、当初はつらかったこともありますが、そこまで頭デッカチにならなくていいのかな、と切り替えると、いい意味で余裕を持てるようになりました」
チアガール

タイのサッカー観戦ではチームのチアガールと接する楽しみもある

 一部の選手はタイでプレーしたあとに引退してタイを去って行くこともある。伊藤氏は家族とともに移住してきたことと、タイのサッカー業界に魅力を感じ、今もスクールでタイ・サッカーに関わっている。そんな伊藤氏にタイのリーグのよさも話してもらった。 「地方クラブの方がバンコクのクラブより熱狂的なサポーターがいて、毎試合スタジアムを最高の環境にしてくれます。練習環境はともかく『ここでプレーしたい』と選手が思える場がタイには多くあると思います」  タイ・リーグで契約を得た外国人選手は、日本のプロスポーツの世界でも耳にする「外国人助っ人」という存在になる。伊藤氏は「自分が必要とされているということを強く感じてプレーできます」という。しかも、タイ人サポーターの外国人選手への後押しは日本のものより強く大きく感じられるのだという。  タイでキャリアを積んだ日本人選手が凱旋してJリーグでも大活躍というケースは現状、まだない。伊藤氏は「そんな前例を覆す選手が出てきてくれると在タイの元サッカー選手としては嬉しいことですよね」と締めくくった。 <取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NatureNENEAM)> たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)
(Twitter ID:@NatureNENEAM) たかだたねおみ●タイ在住のライター。最新刊に『亜細亜熱帯怪談』(高田胤臣著・丸山ゴンザレス監修・晶文社)がある。他に『バンコクアソビ』(イースト・プレス)など
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