自殺した大本萌景さんの遺族が所属事務所からのパワハラがあったとして、松山地裁への訴状提出の前日の10月11日、東京で記者会見を行った 写真/産経新聞社
アイドルを搾取しているのは誰なのかを考えるとき、「オタフクガールズ」という関西のアイドルユニットで活動する、みほたんさんの事例は示唆に富む。前出のAさんやBさんを「事務所所属型」とするなら、彼女は活動方針をすべて自分で決める「セルフプロデュース型」だ。その立場から地下アイドルの懐事情を語ってもらった。
「ライブイベントは月に8回程度。ステージが20分で、グッズやCD、チェキの物販を1時間やります。1回の売り上げは1万~2万円で、自分たちに入るのは、交通費を入れて多くても3000円ほど。残りは衣装代やレッスン代などに使う運営費としてプールしています。事務所所属のアイドルと違って私たちはフリーなので、お金がなくなったときにアルバイトをするか、ライブをやるのか選べるのがまだ救いです」
ここから窺えるのは、地下アイドル活動は決して儲かる商売ではないということだ。誰も中間搾取はしていないのに、みほたんさんの手元にはわずかしか残らない。
「所持金が底を突くと、昼は登録制の派遣の仕事、夜は飲み屋で働いています。ユニットの相方は、撮影会モデルをしています。時給換算するともらえるギャラは普通の仕事より割はいいんですが、せっかく予定を空けていても予約が入らないこともあるそう」
アイドルとしての活動費と生活費を自力で捻出する代わりに、彼女は自由を手に入れたというわけだ。だが、そうかといって彼女はもろ手を挙げて「セルフプロデュース型」をすすめるわけではない。むしろ、できることなら事務所に所属したいのが本音だ。
「毎日のようにライブに出させてもらっているのに、バイトをしなければ食べていけないようなお金しかくれない事務所は問題だと思います。でも、人気があって売り上げが立っているアイドルに対して、ちゃんとお金を還元してくれる事務所があれば入りたい。ただ、そういう会社は東京の大手事務所に限られていて、オーディションの対象は若いコが中心なんですよ」
つまり、アイドルとして真っ当に活動するならば、大手芸能事務所に所属することが先決。それがかなわないからといって、地方のローカル事務所に所属するくらいなら、フリーで頑張っていくほうがまだマシなのである。アイドルを目指す少女たちに、大人はこの現実をしっかり伝えるべきだろう。
取材・文/野中ツトム・福田晃広・布施翔悟・沼澤典史・松嶋千春(清談社)
― 地下アイドル[やりがい搾取]の実態 ―