国道197号線を更に西進すると、
鹿野川ダムにたどり着きます。鹿野川ダムは、県営水力発電と治水を兼ねる多目的ダムで、治水機能強化の為の再開発事業が今年度完了する見込みです。
肱川大水害では、鹿野川ダムは能力を遥かに越える流入量によって
異常洪水時防災操作、業界で言われるところの「ただし書き操作」(※「ただし、気象、水象その他の状況により特に必要と認める場合」のダム操作手順のこと。2011年に国の通達で「特例操作」と呼び方が変わったが、まだ業界ではこの呼称が広く通用している)に追い込まれましたが、それは治水能力をその時点で失った事を意味します。
ダム治水は、時間稼ぎがその本質ですので、ただし書き操作に入るまでの時間を稼いだことが治水機能を発揮したことになりますが、その後は本来ならばダムが無い状態と同等の洪水を生じることになります。簡単に言えば、ダム上流と同じ状態になるはずです。
しかし、野村ダムの場合と同じで、鹿野川ダムの下流ではその上流(黒瀬川)と大きく様相が変わります。
鹿野川ダム周辺の集落で被災跡を残す建物。手前空き地が標高50mなので、水は少なくとも標高55mの高さまで来ている。写真右奥は、水害により3ヶ月通行不能となっていた鹿野川大橋。 2018/10/20撮影
鹿野川ダム直下には肱川大和集落という20~25世帯程度の小集落がありますが、上流では見られなかった大きな打撃が今も残っています。また、目に見える範囲で鹿野川大橋、肱川町中心街、道の駅ひじかわなどがありますが、すべてたいへんに大きな洪水被害を受けています。
今回は、肱川大和集落について記します。この集落は、標高50~55mに立地していますが、標高55mの地点で床上浸水の跡が見られます。浸水被害については既に多くが片づけられていますが、この集落で特筆すべきは地形そのものが洪水によって大きく破壊されていることです。
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下流の肱川大和集落から見た鹿野川ダム 撮影地点は、標高50mで、鹿野川ダム堤頂部は標高91m。写真右は、肱川大和団地。護岸が破壊され、道路も洗掘によって大きく損壊している。2018/10/20撮影
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鹿野川ダムの写真と同じ地点から広角撮影したもの。写真左の工事中の施設は、建設中のトンネル式洪水吐(こうずいばき)。中央奥の荒地は、多目的運動場である大洲市下石丸ふれあい広場が水に剥ぎ取られて無くなった跡。駐車場と雑木林も無くなっている。多目的運動場には、川べりに建物が建っていたが、これも完全に無くなっている。 2018/10/20撮影
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対岸から見た肱川大和集落。写真手前右から、雑木林、駐車場、多目的広場とあり、手前に道路がある筈だが、すべてなくなっている。ダムの手前にある県営肱川発電所も水没した。 2018/10/20撮影
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鹿野川ダム管理事務所横から撮影した肱川大和集落。写真中央で肱川発電所への道路が激しく侵食されている。肱川大和団地から河川敷の運動公園へおりるコンクリート舗装の車道は無くなっている。 2018/10/20撮影
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鹿野川ダム管理事務所横から撮影した肱川大和集落。河川敷へおりる道路の破壊がよくわかる。中央の桟橋型構造物は駐車場だが、支柱が洗掘により基礎を失い構造物が座屈している。 2018/10/20撮影
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鹿野川ダム管理事務所横から撮影した肱川大和集落。河川敷の荒地に見えるが、手前から駐車場、川べりに建屋のある多目的運動広場、駐車場、雑木林の丘となっていた。後方の集落が流失しなかったのは、雑木林が防護林となった為の可能性がある。2018/10/20撮影
このように、
鹿野川ダム上流の黒瀬川と異なり、20~25mの洪水によって地形が変わるほどの大きな洪水被害が残っています。不幸中の幸いなことに、民家が流されることは避けられましたが、これもかなり危うい状態で避けられたものと考えられます。時間が無かったために、住民にお話を伺うことができ無かったことが悔やまれます。
護岸が崩壊し、河川敷の地形が大きく変わるほどの水流で家屋が流されなかったことがたいへんに意外ですが、ダムから見て集落の手前に小高い丘の上の雑木林があり、私はこれが集落を守ったものと考えています。川に近い側の雑木林は丘ごとえぐられて流失しています。
対岸から見た肱川大和集落。上の白線は、国道197号線。集落は、石積みの護岸の上にあるが、雑木林のあったところで大きく削り取られ、民家の敷地まで侵食されている。侵食がこれ以上進めば、集落が流される危機にあった。 2018/10/20撮影
水没跡の観察から、この地点での洪水は、
20~25mであったと推測されます。標高
50~55mで浸水が始まっていますが、この数字は後々まで出てきますので覚えておいてください。
肱川大和集落は、後背の国道197号線が鹿野川ダムに向けて50m登っていますのでたいへんな低地にあるように見えますが、実は200~400m下流の道の駅ひじかわや、肱川町中心集落も標高50~55mにあり、大きな洪水被害を受けています。この一帯は、50~55mの標高があれば、水害を受けないと言う長年の経験則があったものと思われます。
次回、肱川中心集落、道の駅ひじかわなどについてご紹介します。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第3シリーズ水害編-2
<文/牧田寛 Twitter ID:
@BB45_Colorado photo/
USMDA via flickr(CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定