韓国で皮下注射の痩せ薬が大ヒット。誤った乱用が相次ぎ社会問題に

安達夕

BMI30以上の高度肥満患者に限って処方されるが……

「サクセンダ」を販売する韓国ノボ・ノルディスク製薬の広報担当者は、「具体的な販売量は明かせないが予想よりも需要が爆発的に高まり、8月には新規患者に2~3週間ほど薬を供給出来なかった」と明かした。

「サクセンダ」はデンマークのノボ・ノルディスクが糖尿病治療剤の開発中に体重減少の副作用があることを発見し、それを肥満治療剤として出した新薬である。

 アメリカでは2014年12月FDA(米国食品医薬局)の承認を得て、2015年から販売が開始された。韓国では2017年7月アジアで初めて許可を得て今年3月から販売が開始された。

 問題は、韓国国内での極端な誤用乱用だ。

 肥満患者を対象に医師の診療のもと使用されなければならないのに、まるで化粧品を買うように肥満でもない20~30代の女性たちが、友達同士で共同購入をしたり中古売買をしたりしている。

 主婦の崔さん(47歳)は病院にも行ってない。彼女は「友達が買ってくれたのを3週間毎日打っている」と語った。

 また別の主婦は、夫が大学病院の肥満クリニックで処方された「サクセンダ」注射剤のうち、その一つを使用していると言う。

 30代会社員の金さんは、病院に行ったが診療を受けられなかった。SNSで探した「サクセンダ」を販売している病院(皮膚科)に行って「買いたい」と言ったら医師はBMI値や病歴を聞きもせずに処方してくれた。

 医師の処方箋もなく薬を買うのはもちろん違法であり、このように医師がまともに診断もせずに薬を売るのもガイドラインに反することだ。

「サクセンダ」は、FDA(アメリカ食品医薬品局)や韓国の食品医薬品安全処などでBMI値30以上の高度肥満患者や高血圧・糖尿・高脂血症など他の危険因子があるBMI値27以上の肥満患者に限って処方が許可されている。

美容用で安易に販売する医師も

 だが韓国では、このように肥満でもないのに美容用で販売する病院が多い。このような状況ではもちろん患者に副作用などがきちんと告知されるわけがない。

 アメリカ司法省は昨年9月、「ノボ・ノルディスクがサクセンダの主成分が甲状腺がんを誘発する恐れがあるという内容を警告していない」として、662憶ウォンに及ぶ罰金を課した。

 18歳未満の未成年や妊娠中・授乳中は原則的に使用することが出来ないが、韓国では小児科と産婦人科でも販売されている。

 BMI基準に当てはまらない人にはどのような副作用があるのか、また肥満患者と同じ効果が出るのか全く確認されていない。「サクセンダ」が膨大な臨床実験後に承認されたのは事実であるが肥満患者のみを対象に行われたものである。

 ノボ・ノルディスク側は「臨床実験はBMI値27以上の18歳以上の成人のみ対象にしたので正常体重や小児と関連した臨床データはない」と明かしている。

入手難で「中古」品まで

 中古売買は乱用以上に危険性をはらんでいる。

「サクセンダ」は、18mgの注射液がペン型の注射器の中に入っていて、使用量によってペン一つで6日間~30日間使用できる。毎回注射針を交換し注射部位をアルコール消毒しなければいけない。感染の危険があるので複数人で共有することは出来ない。だが、一、二回使用した注射が堂々と中古市場に出回っているのが現状だ。

 肥満を改善し健康へといざなうはずの薬が、感染症や栄養失調などを引き起こせば、本末転倒である。

 美容大国を自認する韓国での、行き過ぎた「サクセンダ美容法」は留まる気配がない。

<文・安達 夕 @yuu_adachi

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