もう1つの“最悪の事態”は、「身の危険」だ。
過去にも何度か述べてきているように、急ブレーキを踏んだトラックは、前方のクルマとの衝突を回避できたとしても、後ろに積んだ荷物が「慣性の法則」によって前になだれ込んでくることで、運転席が潰れたり、バランスを崩して横転したりする危険に晒される。
元トラック運転手である筆者もかつて、縦3m、横1.5mにもなる板状の金型を積んで高速道路を走行している際、急ブレーキを踏んで大規模な荷崩れを起こしたことがあった。もしあの時、道が緩やかな上り坂になっていなければと考えると、今でも背筋が凍る。
トラックドライバーももちろん、こうした荷崩れ対策のために手間を掛け、工夫を凝らして日々荷積み作業を行ってはいるが、残念ながらこうした努力は、右足1本の「ひと踏み」で簡単に吹っ飛んでしまうことが多い。
トラックドライバーにとって急ブレーキを踏む瞬間は、何を載せていたか、しっかり固定していたか、損害額はいかほどかなどを考えたり、時には「前への衝突」と「後ろからの衝撃」を天秤にかける瞬間ともなる。トラックは、走らせるよりも止めることのほうが、技術的にも精神的にも難しい乗り物なのだ。
そんな危険をもたらすトラック前への割り込みだが、実はこの「割り込み」において、トラックドライバーと一般ドライバーとの間に、若干の「感覚のズレ」が生じることがある。その原因になっているのが「車高の違い」だ。
以前述べたように、トラックは車高が高いうえに、左後方が死角になることが多い。そのため、車高の低い乗用車が、そのトラックの前に入るべく右ウインカーをトラックと並んだ状態から光らせても、トラックにはそれが見えないことがある。
一般ドライバーにとっては、長めにウインカーを出していたつもりでも、そのウインカーがトラックドライバーに伝わっていなければ、彼らには「急な割り込み」にしか感じられず、結果、不要な急ブレーキを踏むことに繋がるのだ。
こうした現象は、ルームミラーにトラックの車体がしっかり映り込むくらい前に出てから、ウインカーを4、5回ほど点滅させて車線変更することで回避できる。そのくらいの車間と時間があれば、トラックにも、安全な車間を取り直す余裕が生まれるため、不要な急ブレーキを踏む回数は大幅に減る。
無理な割り込みで生じる結果に、いいものは決してない。帰るべき場所へ皆が帰れるよう、心と車間に余裕を持った運転を常に心がけてほしい。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。