洪水多発地域に建つ物件の説明は、十分になされない場合が多い
「八木蛇落地悪谷」
これは2014年8月に発生した広島豪雨災害被災地の一部地域を指す旧地名として、当時「かつての地名が過去の水害発生を示していたのでは」とメディアでも大きく報じられた名称だ。
この旧地名は不動産売買を目的とした宅地開発の際、徐々に柔らかい言葉へと変貌、さらには一部割愛という形で現在の地名に落ち着いたとされているが、もちろん細かい経緯を記した資料などは残されておらず、現状で確認できる資料や古くから住む生き証人の言葉を頼りに憶測を巡らせるしかない。
実際にこのようなイメージ問題からの地名変更は全国各地で続々と行われており、今や地名の指す言葉がその土地の特徴や由来を示すものではなく、“商品名での印象操作”にも似たチグハグなものとなりつつある。
差し押さえ・不動産執行の現場でもこのような新興住宅地に足を踏み入れることは少なくない。
よく見かけるのは、付近に全く高低差などなく、どこと比べても地表標高が高くなっている部分などない地帯に「丘」「富士」「台」、といったイメージの良い言葉を使う事例。
他にも、なんとなく雰囲気の明るい「光」「虹」といった言葉用いて、沼地を埋め立てた住宅地を売っていたケースもあった。
このような流れで今回ご紹介するのは、元々池だった土地を新興住宅地として開発し、売り出していた物件。
この日は、数日前まで付近を大雨が襲い一帯が浸水被害に見舞われたという中、ようやく訪れた快晴の一日だった。
幸い水は既に引いていたが、街全体に残る泥の流れが刻んだ痕跡を見る限り、床下浸水被害が広く発生していることが伺える。
この手の土地にありがちなのが、既に建物の基礎が高めに取られているというもの。
この基礎の高さが「幸い」し当該物件も床上浸水を逃れてはいるが、元々浸水被害を想定しての建造だと考えると「幸い」とも言い難い。
債務者は後期高齢者で、債務者の息子夫婦が育児を放棄した孫との同居。日々傾く自身の事業を立て直そうと、金を借りつつ事業内容を見直すものの結局は借金が膨らむばかりで今回の差し押さえに至った。