ザイード皇太子がサルマン皇太子に描いたシナリオというのは3つのポイントから成っている。(参照:「
Arabia Watch」)
1)サルマン皇太子が米国から国王の後継者として認められること。
2)イスラエルと直接パイプを築くこと。
3)ワッハ―ヒズムからの解放。
この3点を基に、サルマン皇太子を王位継承者にするためのシナリオを動かし始めたのは、オバマ前大統領の政権時であった。
オバマにサルマン皇太子の存在を売り込んだのであった。その為にも、彼のイメージアップに多額の資金を投入していた。ただ、このときオバマはイランとの歩み寄りを開始して逆にサウジからも次第に信頼を失いかけていた。
そんな中、彼らのシナリオに上手くミートする事件が起きた。それが、トランプ大統領の就任である。トランプは中東における米国の影響力を回復させ、安定した政情を取り戻すにはサウジを中心にした外交が必要であると考えたようである。
折りしも、トランプが中東政治の担当に就かせたのは、彼の娘婿ジャレッド・クシュナーであった。トランプとクシュナーのコンビプランは中東におけるイスラエルの存在を強固なものにして、イランとイラクの発展を阻むという1980年代のヘンリー・キッシンジャーの理論を具体化しているという説もある。(参照:「
Viento SUR」)
この理論の具体化には、イスラエルとサウジが強固に結びつくことが不可欠だ。そのため、サルマン国王そしてサルマン皇太子へと繋がるサウジを米国が支援して行くことが必要なのである。
しかし、今回のカショギ殺害事件で、サルマン皇太子への批判が強まっている。また、サウード家の他の王子の間では、予てからイエメンへの武力介入の結果、何も結果を出せず、袋小路に入った状況を作り出したことなどからサルマン皇太子への不満が渦巻いていた。
サルマン皇太子の後任探しはすでに始まっており、その候補者に彼の弟で現在米国のサウジ大使となっているジャレッド・ビン・サルマンに白羽の矢を立てていると報じたという。(参照:「
HispanTV」)
米国はこの場合、積極的には動けない。サルマン皇太子がどのような反応を見せるかも未知数である。もし米国が彼を解任させようとする動きに加わったとしても、それがスムースに運ぶことは難しく、その隙間をロシアがこのいざこざを利用してサウジに介入して来る可能性がある。
トランプ大統領も、今回の不祥事を起こしたサウジを制裁しようとして武器の販売を中断すれば、サウジは他の国から武器を購入するかもしれないと指摘して、その相手がロシアであることを示唆している。
また、サウジの財政状況も悪化の一途をたどっており、復活の一手としてサルマン皇太子が鳴り物入りで打ち出した改革ビジョン2030も計画倒れになる可能性が大きい。
いずれにしろ、今回のカショギ事件について欧米からのサウジへの批判が強まっていることは、いままでにない事態であだと指摘されている。
レバノン大学のジャマル・ワキム教授は、「
AL MAYADEEN」に寄稿し、欧米からの批判はサウジ王室の崩壊を導き出し、結果としてサウジが他のアラブの国のように分割する意図があるのではないかと指摘している。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身