ミレニアル世代が描く、働き方の転換期。あの弘兼憲史も激賞した『働かざる者たち』「サラリーマン文化時評」#5
「この書は全人類のための労働讃歌だ」。サラリーマン漫画の神である弘兼憲史は、サレンダー橋本の漫画『働かざる者たち』をこう激賞した。しかし、この重要作を語るには、それだけではまだ言葉が足りないだろう。
本作は全人類のための熱い労働賛歌であると同時に、衰退した日本サラリーマン社会への切ない鎮魂歌でもあり、さらには昭和から平成まで続いた日本のサラリーマン像をアップデートしようとする新しい世代のプロテスト・ソングでもある。平成最後の年にこのような作品が産み落とされたことに、ある種の運命的なものを感じてしまう。(※以下、ややネタバレあり)
主人公は、新聞社のシステム部に勤務する入社2年目の橋田。政治記者の同期はスクープ記事を書いて活躍しているというのに、自分は副業で漫画をこっそり描きつつ、裏方仕事を毎日何となくこなすだけ。そんな橋田の周囲には、「どうせ潰れる会社で努力するなんてムダだぜ~?」とうそぶいて合コンに誘ってくるような、逃げ切り体制に入った「働かないおじさん」が大量発生している。
安定した会社で働かずに報酬を得ようとする人たち、いわゆるフリーライダーを斜め上から嗤うギャグ漫画の装いで始まる本作は、やがて彼らのバックグラウンドを丁寧に掘り下げ始める。
一日中ウィキペディアを見ているおじさんも、職場で「ポケモンGO」ばかりやっている先輩も、もともとは仕事にプライドを持つ前途洋々な若者だったことを知り、橋田は自らの中途半端な働き方を問い直すようになる。
実は作者のサレンダー橋本は、自身も(恐らくは)新聞社の管理部門に勤務する、若き現役サラリーマンだ。だからこの作品は、彼が実生活で抱えこんだ迷いや弱さを吐露する、いわば私小説でもある。漫画を描いていることを逃げ道にして、本業の仕事に身が入らない橋田の苦悩は、兼業漫画家の作者自身が抱えた苦悩だ。
自らのギザギザハートをさらけ出しているからこそ、その棘は読者の骨と骨の間の柔らかい部分に刺さってくる。
平成最後の最重要サラリーマン漫画
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2018.09.07
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