この判決について、二人の元議員アレハンドゥロ・アギナガとルイサ・マリア・ククリサは次のように述べた。
フジモリの主治医でもある前者は、「ペルーでは権限の独立性を尊重しようとしない。アルベルト・フジモリ大統領(元大統領ではなく、敢えて大統領と言った)への恩赦はペルー憲法が共和国の大統領に付与されている権限を行使したものだ。大統領の決定を無効にすることなどできないはずだ。酷く無政府な状態の中にいるのではないのだ」と述べた。
後者は「(この判決を)受け入れることはできない。多くの残虐さから我々を自由な身にしてくれたその人物を迫害し続けるなど信じられない。アルベルト・フジモリ元大統領をまた収容所に戻すことは死に至らすようなものだ。それを望んでいるというのであろうか?」と語って判決に憤慨を表明した。(参照:「
Peru21」、「
Diario Correo」)
また、カルロス・ブルセ議員は「収監していた年数と彼の年齢を考慮すれば収容所に戻らなくても済むと私は考えていた」と述べている。(参照:「
Peru21」)
フジモリの弁護士ペレス・アローヨは今回の判決に不服申したてできるとした。上訴する構えだ。人権裁判所の要請にて行われた最初の裁判であることから、今回の場合は最高裁の判決だと言っても一審に匹敵するものだとしている。
そして同氏は、「フジモリの恩赦を唯一無効にできる手段は憲法裁判所によるものだ」と確言した。
また、今回の恩赦を無効にした判決には政治的色彩が強いとして、その反響を上手く導き出すにはフジモリ自身の娘ケイコが率いる政党に重大な責任があるとした。(参照:「
El Comercio」)
彼女は今も大統領になることを望んでいる。その為にいつも世論を気にして彼女の父親の恩赦は仮に大統領になっても与えないと主張して来た。彼女の政党が議会で最大の勢力をもっている。その政治力でもって父親の恩赦を獲得することは出来るはず。しかし、これまで彼女は政治的に影響力を発揮することを控えて来た。それが、フジモリの弁護士が指摘していることと相通じるものがあるのである。
一方、恩赦の無効をこれまで主張して来た遺族の弁護士グロリア・カノは、恩赦の背後にはクチンスキーとケンジの間で裏取引があったことを指摘して恩赦の無効を訴えて来た。それが今回の判決で受理されたことに満足しているという。(参照:「
Diario Correo」)
フジモリを再び収容所に送ることを是非とも避けねばならないとしたフジモリ陣営は80歳以上の高齢者が収監することを免除する法案の批准にに取り掛かることで動き始めた。現在その為に二つの法案が用意されているという。姉ケイコと弟ケンジは対立してはいるが、この法案の批准には協力する構えだ。
一方、フジモリはビスカッラ大統領と司法に再び収容所に送られないように要望を伝えた。高齢でそれに耐えるだけの力がないと伝えたという。(参照:「
El Comercio」)
移民から一国の大統領になったフジモリ。いま、彼が置かれている状況は厳しいものだが、それでもなお彼のペルーでの貢献については日本人はもっと知っておくべきだろう。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。