※写真と本文は関係ありません photo by テラス / PIXTA(ピクスタ)
この日の差し押さえ・不動産執行は厳戒態勢で全員がソワソワと地に足がついていない様子だった。
これまでにない緊張感が周囲に張り詰めており、マスクなどで顔を隠しながら少し離れた位置より当該物件を睨んでいる。
このような事態は古くから携わる執行人曰く、実に15年ぶりの出来事だという。
現状では競売に関する法整備も行き届いているため、いわゆる
ヤクザ屋さんの占有行為には強制執行で追い出すという対応も可能となっているだけでなく、執行妨害ともなれば厳しい処分が待ち受けている。なにより全くメリットがない。
これまでのように占有により不動産価格を下げることも出来なければ、不正に入手することも、立ち退き料をせしめることも出来ないという状況が構築されたため、これらを目的とした“占有屋”が約15年も発生していなかったわけなのだが……。
一体なぜ今、ヤクザ屋さんの占有が……。
「兄貴分のやり口を覚えていた舎弟たちが見よう見まねでやっているのでは」
「現状の法整備がわからず過去の手口を使っているだけなのでは」
「複数の債権者の中から自分たちが優位に立ちたいという意図があるのでは」
執行人らも様々な意見を出し合ってはみるものの、もちろん答えは出るはずもなかった。
当該物件に目を向けてみる。敷地面積は広いながらも、片田舎の団地裏にあるフラッグ形状地。建物自体も築年数が古く傾きが発生しており、お世辞にも価値があるとは言い難い。
「なぜこんな物件に固執しているのか」
物件を確認した執行人らの謎はますます深まるばかりだった。
この日の執行人チームは、中では若い執行官にベテラン鍵開け師、立会人は元マル暴の突入班、そしてこちらも同じく若めながらも経験豊富な不動産鑑定士。さらに付近では
警察官がパトカー数台で待機というこれまでにチームを組んだことのない新鮮な布陣。
建物には
監視カメラがこれでもかと取り付けられており、元マル暴の方曰く中に人の気配があるという。
それでも呼びかけに応答が無いため、鍵開けを開始という段取りになったのだが、鍵開け師さんが難色を示した。
「これ内側から細工してあるよ。俺ちょっと嫌だな」
過去には
内側からスタンガンで電流を流されたこともあるため慎重になるのは当然だ。
元マル暴の方が強い口調で応答を催促すると、中から話し声が近づきようやく応答があった。