間違いだらけの企業研修。参加形態や名札の有無で効果が激変

演習効果の増減は細部に宿る

 そうなると、主催部門は名札を用意して席に置き、研修終了後は回収することが必要となると思うかもしれない。事実、参加者が会場に入ると、自分の氏名が記載された名札が、席のどこかに置かれているという研修が多い。研修運営担当者の準備事項のリストに「参加者の名札作成」があり、名札を入れるケースが参加者分準備されていることが普通だ。  しかし、私のプログラムでは名札は用意しない。そのかわりに、あらかじめ四つ折りにしたA4版のコピー用紙とサインペンを、ひとりひとりの席に置いておく。参加者自身がサインペンで、用紙に名前を記入していくのだ。  このように申し上げると、「研修運営担当者は、きめ細かく配慮して、できることはすべて準備しておくべき。参加者自身に名札を書かせるようなことをしてはいけないのではないか?」という反応に接することがある。  実は研修運営担当者が名札を用意するよりも、参加者自身が名札を書く方法のほうが、演習効果が上がるのだ。名札の置かれた席につくという行動は受け身の行動だが、名札を書くという行動は能動的な行動だからだ。演習会場に入ったあと、受け身の行動をできるだけする必要がなく、能動的な行動を繰り返していくと、モチベーションが上がり、演習効果が高まることが確認されている。 「席に名札を置かないということは、座席図を用意しておかなければならないので、研修運営担当者の負荷は高まる」という声をある。しかし、私のプログラムでは座席図は用意しない。そもそも、座席は指定せず、自由席だ。参加者ひとりひとりが座りたい席に座る。  これに関しても、「演習するならばなおさら、同じ部署の人が同じグループにならないようにとか、どの人とどの人を同じグループにしたほうがよいなどと席を指定したほうがよいのではいか」「席を指定しないと、みんな後ろの席に座って、前が空く」などという考え方に接する。  しかし、私は、「気心知れた人と同じグループになりたければそれでもよい」「後ろに座りたければ後ろに座ってよい」と考えている。「どうぞ自由に席をお選びください」とガイドすると、参加者ひとりひとりが程度の差こそあれ、どこに座ろうか自分で考える。そして、自分にとってよいだろうと思う席につく人が増える。能動的に考えて、自分にとってよい選択を自分にすること自体が、モチベーションと演習成果を上げるのだ。  希望者先着順任意参加、受付で出席のチェックをしない、名札は用意せずに自分で書く、どの席に座るかは参加者の意思にまかせる……。いずれもモチベーションを高め、演習成果を上げる効果がある。ひとつひとつは些細な方法で効果は大きくないが、積み重なれば、大きな違いが生ずるのだ。 【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい、2017年8月)がある
(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある
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