羨望と嫉妬で足を引っ張る人間が多い日本で、「屈託なく金持ちの楽しみを謳歌できる」人間は貴重である

菅野完
前澤友作氏

写真/AFP=時事通信社

宇宙旅行を決めた前澤友作氏の明るさに見る「希望」

 いまひとつ盛り上がりに欠けた総裁選を眺めなながら、ずっと釈然としないことがあった。安倍晋三も石破茂も、両者ともども、どこからどう見ても、まったくもって、楽しそうでないのだ。

 両候補ともどもそれなりに必死だっただろうし真剣に取り組みもしたろう。だがなぜか、仕事に取り組む人間が必然的に見せる「楽しそうな表情」があの2人の顔には一切浮かんでこない。おそらく安倍晋三にとって今回の総裁選は消化試合、石破茂にとっては絶望的な戦いということで、心の奥底の一部分でどこか白けたものがあったに違いない。

 来る日も来る日も、苦しそうに選挙活動を行うあの2人の表情に半ば食傷気味になっていたとき、それとは真逆の笑顔をテレビで見かけた。

 ZOZOTOWNの前澤友作社長がアメリカの宇宙企業・スペースX社と月面旅行の契約を結んだという。契約発表の記者会見で前澤氏は「画家や音楽家など6~8人の芸術家とともに月に行く」とも話している。実に夢のある話ではないか。

 記者会見の様子で印象に残ったのは、前澤氏の屈託のない楽しそうな顔だ。決して「満面の笑み」ではない。いや、微笑とも言えないほどの「ちょっと口角を上げただけ」の表情なのだが、その目の色、立ち居振る舞いからは、溢れんばかりの「楽しさ」がにじみ出ている。

 前澤氏はこれまでも、現代アートの収集やプロ野球球団への出資、そして芸能人との色恋沙汰など、「金持ちの道楽」のど真ん中を歩いてきた。今回の月世界旅行もその一環なのだろう。これを「成り金趣味」と斬って捨てるのはたやすい。だが、あの記者会見での実に屈託のない前澤氏の顔を見ていると、どうにもこうにも楽しそうで、たやすく批判したり糾弾したりすることができなくなる。素直に「いいなぁ、楽しそうだなぁ」とこっちまで笑顔になってしまいそうになる。

 思えば前澤氏のような「屈託なく金持ちの楽しみを謳歌する」タイプの富豪を長らく日本の社会は持たずにいた。

 20年ほど前のITバブルの頃に登場した「成り金」たちは、財を成すとすぐに処世訓を垂れてみたり経営論を語ってみたりして説教くさかったではないか。

 前澤氏にはそういうしかつめらしいところが一切ない。屈折がないのだ。ただただひたすらに、「財を成したものだけが知りうる世界」を楽しんでいる。氏が若い人たちの間で一種のロールモデルのように崇められるのも頷ける。彼は徹底的に明るい。

 この明るさは、嫉妬と羨望で他人の足を引っ張る下劣な習い性のある日本の社会にとってある種の希望だろう。

 日本にだって底抜けに明るくて楽しそうな金持ちがいたって、いいはずだ。

【菅野完】
1974年、奈良県生まれ。サラリーマンのかたわら、執筆活動を開始。2015年に退職し、「ハーバービジネスオンライン」にて日本会議の淵源を探る「草の根保守の蠢動」を連載。同連載をまとめた『日本会議の研究』(扶桑社新書)が第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞を受賞。最近、どこよりも早く森友問題の情報を提供するメルマガが話題(https://sugano.shop/

― なんでこんなにアホなのか ―

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