タイで500万人の命を救った男。90年代、拡大するエイズ感染を止めた英雄を直撃(2)

風俗街のコンドーム使用率が13%から100%に

 筆者は、100%コンドームキャンペーンを実施するにあたり、まず何をしたのかDr.ウィワットに聞いた。  博士「保健省の役人として私がバンコクから派遣されたのはラッチャブリという地方都市でした。そこに12,3軒の“娯楽施設“がありましたから、そこの経営者を呼び出しました」  筆者「でも、そういう経営者が、簡単に呼び出しに応じるものですか? 私なら、そんなもの行きませんよ」  博士「そこは警察の力を借りました。警察が営業停止をちらつかせて呼び出せば、それは行くしかありませんからね」  筆者「それで納得がいきました」  博士「そこで私が説くわけです。君たちの“娯楽施設”で何が行われているかはわかっている。患者がお宅で病気をもらったと証言している。だが証拠がないから現時点で逮捕はできない。コンドームさえ全員に使わせれば、性病は発生しないからお宅の施設は政府からは目に見えない存在になる。全ての“娯楽施設”でゴム使用を徹底すれば、客の質もよくなり、働く女のコたちも病気をもらうことはなく、健康に長く働けて店の売上も上がるではないか」  こうしてラッチャブリにおいてコンドームの無料配布が始まった。  今度は、女性側の説得だ。貧しさから夜の仕事に入った女性にとって、ゴムなしで手に入る臨時収入はあまりにも魅力的に違いない。どのように諭していったのか。 「それまでのコンドーム使用率は13%前後でした。仮にそれで性病をうつされたとしても安い薬で治療できましたからリスクとリターンを考えたときにコンドームなしの快楽のほうが大きかったのです。しかし、エイズが広まるようになってからは、治療薬がないことが知られるようになっていましたからその恐怖を説けば女性たちを説得することができましたね。何より、それでもゴムを使いたがらない男がいるとするなら、もうHIVに感染して感染予防などどうでもいいと考えている可能性が高いのです。その点を強調しましたね」(ウィワット氏)  次に、暴力の問題である。  密室の中で理性を失った男、というか獣がコンドーム使用を拒否してか弱い女性に襲いかかるときはどうすればいいのか。 「もちろんそういう場合も考えられます。それを防ぐには、部屋の中に必ず警告文を貼りだしておくことです。“サービスの提供に際しては、コンドーム使用が義務となります。万が一、お客様が暴力的行為に及ぶ場合は、即刻女性がマネージャーに通知いたします”いかなる形においても、コンドームなしのサービス提供はありえないのだという方針を明示しておけばよいのです」  ラッチャブリで圧倒的成果を出し、周辺地域でも成果が認められた100%コンドーム使用キャンペーンは、当時のアナン・パンヤラチューン首相によりタイ全体に広がることとなる。  次回は、Dr.ウィワットがいかにしてこのような影響力を国内外で得ることができるのか、そこに絞って語っていきたい。 【タカ大丸】  ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。  雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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