ダム操作のルールに固執して事前放流せず、「確信犯的な殺人だ」と住民怒りの声

ダム管理所所長「河川法で規制され、臨機応変に変更はできない」

川西所長

急激な大量放流で死者5名・家屋浸水650戸の被害を出した「野村ダム」(西予市)の放流操作などについて、視察国会議員に説明をする川西浩二・ダム管理所長

 国交省の説明後の質疑応答では、国会議員に同行していた「水源開発問題全国連絡会(水源連)」の遠藤保男・共同代表から、治水機能を肝心な時に失う事態を招いた“自虐的操作”(300トンの放流量を保持)に対して、「最初から(放流可能な)1000トンを、どうして流さなかったのか」という疑問の声が出た。  野村ダム管理所の川西浩二所長はこう答えた。 「平成7年(1995年)に下流で大きな被害があって、『野村ダムは全く貯留(水を貯めて治水機能を果たすこと)をしてなかった』と批判されました。それで『300トンから貯留します(放流量を流入量以下に保って水を貯める)』という、中小規模洪水のダム操作規則に変わったのです。だから300トンでずっと放流をしていました」  しかし遠藤氏は納得せず、「大量放流でこういう事態になることは予見できたのではないか」「『現行の(中小規模対応の)操作規則ではダメ』と言えばいい」と再質問した。所長は「ダム操作規則は河川法で制定されていて、大臣・関係機関・知事の合意のもとで下流住民に説明をされてしまっている」と反論。「臨機応変に変更することはできない」という立場を繰り返した。  遠藤氏が指摘する通り、現場のダム管理者としては「中小規模対応のダム操作規則ではダメだ。気象庁の警告を受けて、今回は大規模洪水対象の操作規則に戻して対応します」と河川法に明記された国交大臣や知事などへの緊急提案をするのがダム管理者の役割だろう。  あるいは、中央からのトップダウンでも良かったはずだ。安倍首相は、気象庁が警告を発した7月5日夜の「赤坂自民亭」への出席を中止し、すぐに非常災害対策本部を設置して石井啓一国交大臣(ダム管理の最高責任者)をはじめとする関係閣僚を招集、記録的豪雨に即した大規模洪水対象の操作への変更指示を出すべきだった。  しかし実際には、現場のからの緊急提案も、中央の指示もなかった。安倍首相や石井国交大臣やダム管理者(国交官僚)も、5日14時から無為無策の時間を過ごして、下流住民の生命財産を奪う事態を招いたのだ。

今のダム操作規則では、今回のような豪雨災害には対応できない!?

 遠藤氏の指摘を受けて、公共事業チェック議連事務局長の初鹿明博衆院議員(立憲民主党)がこう質問した。 「現行の(中小規模洪水対応の)ダム操作規則は極端な豪雨災害には対応できないと感じているのか。(1995年当時の)大規模洪水対応に戻すのか、別ルールがいいのかなど、『改めて別のルールを定めないといけない』という認識なのか」 「雨の降り方の予想によってA(以前の大規模洪水対応の操作規則)とB(現行の中小洪水対応の操作規則)を使い分けるようなことは無理なのか」  所長はこう答えた。「今の中小規模対応のダム操作規則だと今回のような豪雨災害に対応できないのは現実だと思う」「我々に『AかBかを選択しろ』というのは厳しい」。  これでは、下流域の被災者の多くは納得しないだろう。そこで、国会議員への説明が終わった後、野村ダム管理所の川西所長を直撃してみた。
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野村ダム管理所長を直撃
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