大坂なおみ選手が飛び交うブーイングを一掃させたビジネスでも使える「スキル」

山口博

大坂なおみ選手

Photo by Julian Finney/Getty Images

ブーイングを一掃させた「魔法」の正体

 テニスの大坂なおみ選手が、全米オープンの女子シングルス決勝で、セリーナ・ウィリアムズ選手を破り、初優勝した。四大大会のシングルス優勝は、日本選手初の快挙だ。決勝戦は、ウィリアムズ選手が3度の警告を受け、主審と口論、直後の表彰式は、会場からのブーイングが響くなかでスタートした。

 優勝者としてのコメントを求められた大坂選手は、「みなさんがウィリアムズ選手を応援していたことと思います。こんな終わり方で、すいません。ただ試合を見てくれて、ありがとう」という意味の話をし始めた。そのうえで、「セリーナと全米の決勝でプレーすることは夢だったので、夢が適って嬉しかった」と続けた。

 このインタビューは、メディアが好みそうな“父親がハイチ共和国出身、母親が日本人。米国と日本の国籍を持ち、大会エントリー国籍を日本にしている大坂選手が、日本人らしい謙虚さを持ち合わせている”という点ばかりがハイライトされ、注目が集まっている。

 たしかに、いかにも日本のメディアが好みそうな構図だが、私はむしろこの事例は、周囲を巻き込む、優れたビジネススキルが発揮されたモデルだという点に注目している。

 インタビューを分解していくと、それは相手のことに言及したあとに、自分のことに言及するというスキルだ。なんだ、そんな単純なことかと思うかもしれない。しかし、実はそんな簡単なことを、ほとんどのビジネスパーソンが出来ていないのだ。

相手のことに言及することで、相手を巻き込む

 私は身につけたいスキルをパーツ分解して、コアスキルを反復演習するスキル開発プログラムを実施している。演習で日頃行っている話法を紹介してもらうと、他の同僚への仕事の依頼でも、上司への相談でも、部下への指示でも、お客さまに対する営業でも、自分が言いたいことを伝えているケースがほとんどなのだ。

 言いたいこというだけなので、相手の反応がわからない。相手が別の考え方をもっているかもしれないが、それを気にしない。話し手が聞き手の状況を気にしていないことはすぐに伝わるので、聞き手からしてみれば、一方的だと思えてしまう。ひいては、聞く耳をもたないという悪い循環に陥ってしまう。

 なかには、話し手から一方的に押しつけられているように感じて、抵抗感さえ覚えてしまうという事例さえある。そうならないために、とても簡単で誰でもできる方法が、自分の言いたいことを言う前に相手のことに言及する方法だ。

 他の同僚へ、「○○の仕事をやってください」と自分が依頼したいことを話す前に、「忙しそうですね」と相手の状況に言及する。上司へ、「△△について教えてほしいのですが」と、自分が聞きたいことを伝える前に、「さきほどの会議で助言いただいて、ありがとうございました」というように相手のことに触れる。「□□を必ず期限までに実施してください」と部下に指示したいことを言う前に、「今週は順調に進捗しているみたいですね」と相手の状況を取り上げる方法だ。

 そのうえで、依頼や相談や指示を繰り出すと、格段に相手の受け止め度合が柔らかくなることに気づくに違いない。相手のことに言及したあとに自分のことに言及するという、話す順番を入れ替えるだけのことなのだが、これを逆にしてしまい、自分のことから話し始めると、相手を巻き込みづらくなる。

 道理はとても簡単なことで、聞き手は、自分自身のことを言われると関心を高める。だから、聞き手を巻き込みたかったら、話し手はまず相手のことに言及すればよいのだ。

次のページ 
反復することで自然にスキルを身につける
1
2
チームを動かすファシリテーションのドリル

「1日1分30日」のセルフトレーニングで、会議をうまく誘導し、部下のモチベーションを自然にあげられるようになる!

4
5
関連記事
6
7