秋田と萩へのイージス・アショア配備こそ、日本を逆に窮地に追い込む「平和ボケ」

秋田、萩への配備が変える日本の「戦略的な意味」

 北朝鮮が核開発に成功し、ソ連邦初期程度の対米核戦力を保有した場合、北朝鮮は対米核抑止力を保有したことになります。これは、使うことは無くてもよく、存在することに意味があります。実際、フルシチョフ時代の対米核戦力には、殆ど実体がありませんでしたが、合衆国への決定的な抑止力となりました。しかし、秋田と萩のイージス・アショアはその抑止力の効果を打ち消しかねません。そうなれば、抑止力の維持の為に排除の対象となります。平時は「正体不明の」ゲリラ・コマンド(ゲリコマ)による破壊の対象となりますが、核戦争時には、最優先の先制核攻撃の対象となります。  合衆国で冷戦時代の1979年に作成された『First Strike』という映画が先制核攻撃によって何が起こるかを表しています。この映画は、1980年頃にNHKでも合衆国のホワイト・ホース計画(中性粒子ビーム砲)やレールガン(電磁砲)開発、そして電磁パルス(EMP)の恐怖と共に紹介されました。  このFirst Strikeは合衆国国防省とランド研究所の協力で制作されたプロパガンダ映画で、いまでも合衆国が何を考えているかと言う点で一見の価値があります。
First Strike

First Strike (1979 film)

 先制核攻撃は、まず相手国の目つぶし、次いで迎撃戦力の破壊(当時、ABMは廃棄済みで存在せず)、報復核戦力の破壊(MAD戦略の場合)、都市の破壊を行います。北朝鮮の場合、核戦力の規模が小さい為に、確実性の高いグァム、ハワイ諸島の破壊を優先する可能性があります。合衆国本土はアラスカとカリフォルニアにGBD(地上配備のミッドコース段階への大型ミサイルによる迎撃システム)が配備されており、少数のICBMを迎撃できる態勢を整えているからです。GBDは、ロシアからの大規模核攻撃には対処できませんが、もともとGPALS(地球規模防衛構想。冷戦の終結に対応して、限定的攻撃に対する防御に重点を置いた地球規模防衛構想でブッシュ政権時の’91年年頭教書で発表された。後のクリントン政権時にTMDへと縮小される)にはじまった偶発核攻撃や新興核保有国による小規模核攻撃に対処することを目的としています。  そして、グァムとハワイへの核攻撃を妨害し、北朝鮮の対米核抑止力を不確実化するものが秋田と萩のイージス・アショアです。つまり、これらは、最優先で破壊する対象になりますので、通常弾頭や核弾頭搭載MRBMによる飽和先制核攻撃に晒される可能性があります。陸上固定基地に対しては、照準をあらゆる場所から徹底的に事前に調査の上で設定できますので、イージス・アショアは、飽和先制核攻撃には絶好の目標となります。  もちろん先制核攻撃は、合衆国による報復核攻撃を確実に起し、北朝鮮は全土がおよそ30分で「煙の廃虚」となります。それが合衆国のもつ核抑止力です。なお、北朝鮮が「煙の廃虚」となったあと日韓は、放射性降下物による破滅的な打撃を受けます。  したがって現実には北朝鮮による対米核攻撃は起こり得ないと考えられますが、抑止力(この場合北朝鮮による対米抑止力)とは、「存在し」、「確実性を担保する」ことで合衆国による対北朝鮮先制攻撃を抑止することが目的ですので、実際に対米核攻撃を成功させる前提で配備されます。したがって日本は、萩と秋田へのイージス・アショア配備によって先制核攻撃の最優先対象になり得ます。核抑止と言うものは、見せつける事によって成り立ちますが、それを見せかけだけと断定できる根拠はないのです。人類が70年以上抱えている矛盾です。  もともと先制核攻撃の対象でない日本が、自ら進んで先制核攻撃の対象となる訳です。核抑止を理解しない愚行の最たるものです。私は、真の「平和惚け」と断じています。
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必ずつきまとう「対抗措置としての軍拡」
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