吉澤ひとみは弟を交通事故でなくしていたのに、なぜ飲酒運転・ひき逃げを行ってしまったのか?

本当に断罪だけで良いのか

 さらに吉澤の場合、トラウマと向き合う十分な時間を取れず、傷を深めた可能性があるという。 「弟さんを亡くされて以来、激しい喪失感や強い怒り、運転への恐怖は常にあったと思います。ただ、亡くなった3日後にはステージに立つなど気丈に芸能活動を続けており、辛い本心を打ち明け相談することも難しい状況だったと推察されます。その結果、弟さんの死を消化することが出来ずにいたのだと思います」  生命維持や精神の均衡を脅かすような強烈な心的外傷は、通常の嫌な思い出とは違い時とともに軽減されることは難しく、侵入的に反復され強化されていく。そして苦痛から逃れるため、心に様々な機能的障害を引き起こす。  もっとも、自分が轢かれるのではなく轢く側に回るのは理解に苦しむところであるが、これもPTSDの特徴である「体験の否定」が絡み合っている可能性がある。  事故を起こす側になることで弟の死を否定し、かつ飲酒運転で自身の命をも危険に晒すという、自暴自棄的で複雑な心理状態だ。 「トラウマへの固執が強いと、それを解決するために逆のことをしてプラスマイナスゼロにしようとする力が働きます。  自分は弟を亡くした被害者であるが、同じ場面を再現し、自分が加害者になることで辛い記憶を相殺しようという偏った考えは無意識レベルであったと思われます。それが飲酒により顕在化したのかもしれません」  吉澤が未だ弟の死を乗り越えておらず、自己破壊願望を止められないのであれば、かなり深刻な状態と思われる。 「もちろん吉澤さんは、罪を償い大いに反省する必要があります。一方で、ここに至るまでの彼女の心理的な背景を考えると、精神的なケアもしっかり受ける必要があると感じます」  当然、ここまでの記述は推測にすぎない。  ただ、不祥事を起こした人を叩くのは容易だが、そこに至った背景に目を向け、他山の石とするのも重要ではないか。 【安宿緑】 編集者、ライター。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在プレスタート)メンバーとして、主に朝鮮半島セクションを担当。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。個人ブログ
ライター、編集、翻訳者。米国心理学修士、韓国心理学会正会員。近著に「韓国の若者」(中央公論新社)。 個人ブログ
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