「気持ち悪い……」社会にあふれる二次元キャラの性的表現、「最適解」はどこにある?<北条かや>

見たくないものを見なくてもよい権利を互いに尊重すべき

 一方、「性的な部分を誇張したイラストは不快」という感情を軸にしたシュナムル氏には、脇が甘い部分もある。  不快さを理由にコンテンツを一掃することが許されるのなら、女性が好むBL(ボーイズラブ)作品は姿を消さねばならない。マンガ化された『源氏物語』もロリコン要素が強いので危ういし、世界的に人気を博している『ONE PIECE』も、登場人物の女体が誇張されすぎているので閲覧禁止、となるかもしれない。二次元のイラストに不快感を示す良識が、守るべき自由まで斬ってしまうリスクは計り知れない。  2010年に、「非実在青少年」なる単語が集中砲火を浴びた。東京都が提出した「青少年健全育成条例」の中に新しく登場した言葉で、マンガやアニメ内の「18歳未満に見えそうなキャラクター」のこと。都はそうした二次元キャラによる性的な描写を、不健全図書として規制しようとしたのである。  条例は「表現の自由をないがしろにする」として、有名漫画家や知識人など多くの反対にあい、廃案となった。百歩譲って「健やかな子供を育てる」との大義名分は理解できても、表現の自由を犠牲にするのは危険だ。  ゾーニングという手段もある中で、シュナムル氏が二次元コンテンツを「子供には暴力的」と決めつけたことから、非実在青少年をめぐる議論を思い出した人もいるだろう。彼の主張は単純明快な分、ツッコミどころも多かった。女性が性的に消費されるコンテンツを批判するには、幾重もの理論武装が必要なのである。  脇が甘いと、すぐに総攻撃を受ける。シュナムル氏は炎上し、「考えが浅すぎる」「感情論にすぎない」などのリプが殺到した。

彼を批判するだけのネット世論の危うさ

 一方で私には、そうやって彼を批判するだけのネット世論もまた、危うく感じられる。現実をみれば確かに、女性の自己決定権を奪うような性的コンテンツが氾濫しているからだ。一部には『an-an』の男性ヌードグラビアやBL、イケメンを消費するアイドル文化などもあるが、それらの存在は「女性を消費する性表現」を100%正当化しない。  主に男性が、女性を性的にまなざすコンテンツには、誤解を恐れずに言えば「強姦」に近いイメージがある。シュナムル氏が指摘した画像のたぐい、そうした画像に向けられるまなざしの総体から無意識に「強姦」の要素を抽出し、一部の女性が恐怖を覚えるのは仕方がないことだ。  少なくとも私は、性的なコンテンツに心まで強姦されたくないと思っているし、こう主張することもまた表現の自由であるべきだろう。その自由が、他者の自由を侵害しなければいいだけの話だ。  重要なのは「(性的)表現への自由」に加えて、「表現からの自由」であり、見たくないものを見なくてよい権利である。 「これを見たい」という、他者の欲望を蹂躙しないこと。「私はこれが『見たくない』、なぜならば……」という理由も含めて、互いに丁寧なコミュニケーションを重ねること。  たとえば、先に述べたとおり、私は一部の性的表現から「強姦」のイメージを感じ取ってしまうが、それが一面的な想像であることも自覚している。願わくば、そのイメージの貧困さを、消費する側の人たちから納得のいく説明として聞きたい。  議論がしたい。あなたたちは何を欲望しているのか、いないのか。私のイメージが貧困であるとすればなぜなのか。  表現の自由を許容しない「誰か」を、一方的に責めるだけでは前に進まない。個々人が自分の言葉で、それぞれにとっての「自由」を定義しあう社会を、私は待ち望む。 <文:北条かや> 北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。 公式ブログは「コスプレで女やってますけど
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