健康被害続出に経済損失は数千億円。サマータイム導入は日本の息の根を止める

経済効果より損失大。長時間労働が常態化

 次にサマータイム導入による経済効果について見ていこう。  第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミストの永濱利廣氏は、次のように試算する。 「サマータイム導入によって、活動時間の増加が家計消費にプラスに影響し、娯楽・レジャー・外食等への出費増を通じて個人消費が0.3%増加。金額にして7532億円に相当すると試算されます。’09年に札幌市でサマータイムが実施されたときも、域内のGDPを0.4%押し上げました。しかし、余暇時間を有効利用するという目的なら、年2回も時間を変え、健康被害の大きいサマータイムよりも、変更が1回で済む標準時の前倒しのほうがまだましでしょう」  サマータイムの恩恵を受けるためには、実施期間の問題に加え勤務時間にも留意する必要がある。 「戦後に実施されたサマータイムが失敗したときのように、始業時間が早まっても終業時間は変わらず、労働時間が長引けば経済効果は薄れます。特に中小企業は人手不足なので、『こんな明るい時間帯で定時には帰りにくい』と居残ってしまう人も多いのではないでしょうか」  通常時間から夏時間に移行する際、コンピュータシステムの変更のコストにも留意が必要だ。 「サマータイム導入時のシステム変更だけで数千億円かかると言われています。SE業界には特需となるかもしれませんが、多くの中小企業は負担を強いられるでしょう。また、この時期は消費税の軽減税率や元号の変更なども重なっているため、そもそもシステム変更は難しいかもしれません」
サマータイム

2000年を迎えようとした’99年末はシステム改変のため、エンジニアは不眠不休の対応を迫られた

 さらに、再び睡眠の話に戻ると、’16年の米国ランド研究所の調査では、日本人の睡眠不足による経済損失は年間約15兆円、国民総生産の2.92%に相当するという試算もある。  経済効果よりも損失のほうが圧倒的に大きいサマータイムだが、今年8月に森会長の要請を受けた安倍首相は、旧森派という手前無視するわけにもいかず検討を約束。  こうしたなか、遠藤利明・自民党東京五輪実施本部長は、9月に党内に「サマータイム議連」を立ち上げる考えを明らかにした。  そこで編集部は、サマータイム議連の会長に就任する河村建夫衆院予算委員長、議連の実務を担う遠藤氏の事務所に議連の動向などを尋ねてみたところ、次のような返答があった。 「自民党でもサマータイムについてさまざまな考えを持っている人がいる。一丸となっている感じではない」(遠藤利明事務所) 「これから動くので、議連に誰が入るのかはまったくわからない状態。自民党内でもさほど盛り上がっていない」(河村建夫事務所)
サマータイム

サマータイム消極論が根強いなか、検討を進める同議連の河村氏(左)と遠藤氏(右)

「マスコミが騒いでいるだけですか?」と敢えて聞いてみたが、とくに否定はしなかった。  議員たちの歯切れが悪くなるのも当然で、世論のサマータイムへの反発は激しさを増す一方で、8月31日、サマータイムを採用中の欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は、域内市民の8割が制度の廃止を支持したことを受け、廃止を目指す意向を表明している。 《サマータイム導入で起こりうること》 ●メリット 個人消費の増加……まだ日が明るいうちから退社できるため、帰宅前にパチンコや居酒屋などに寄ることで経済効果を見込んでいる。日本生産性本部によれば、経済波及効果は9673億円に達する 省エネ……明るい時間に活動できるため電気などの節電効果がある。日本生産性本部によれば、原油換算で93万kl分の省エネ効果があり、全国民が使う冷蔵庫の消費電力40日分に相当 防犯効果……外が明るい時間帯に学校や会社から帰宅できるため、犯罪に巻き込まれるリスクが軽減する。見通しもいいため、暗い中での運転を避けることができ、接触事故も減少する ●デメリット 健康被害……“早起き”と聞くと、一見聞こえはいいが、同時に“早寝”しなければ、睡眠負債は溜まっていく。その結果、脳や心臓、精神面にダメージが及び、死に至る危険性もある システム改変コスト……時計が2時間繰り上がることで、各コンピュータシステムを調整し直すことになり、各企業は大きな負担を強いられる。それに加え、国や自治体の公的インフラの修正も必要だ 労働時間の超過……ブラック企業は、国のお墨付きを得て労働者に早出出勤を強要できる。また、神山医師は新聞記者、コンビニ店長、警察官、消防士など日頃から激務な業界の人間が心配だという 写真/時事通信社
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