時間の変更の廃止がほぼ決まった現在、新たな問題が発生している。
EUの各国は年間を通して一つの時間帯にするのに、夏時間を採用するのか、それとも冬時間を採用するのかということを各国が独自に決定しなければならなくなるということである。フィンランド、オランダ、デンマーク、チェコは冬時間を採用することを決めている。
現在のEUには3つの時間帯が存在している。それが一斉にサマータイムを採用して来たのである。グリニッジの時間帯を基本にしている英国、アイルランド、ポルトガル、スペイン・カナリア諸島のグループ、それから1時間の時差のオーストリア、ベルギー、クロアチア、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、イタリア、ルクエンブルグ、マルタ、オランダ、ポーランド、スロバキア、エスロベニア、スペイン、スウェーデンの17か国グループ、そして更に1時間の時差でブルガリア、キプロス、エストニア、フィンランド、ギリシャ、レトニア、リトアニア、ルーマニアのグループである。
サマータイムが廃止される前に、各国は周辺諸国との関係を考慮しながら夏時間を採用するのか、それとも冬時間で年間統一するのか決定することになるのである。(参照:「
El Pais」)
ところが、スペインはもうひとつ問題を抱えているのである。ヨーロッパの地図を見ればお分かりのようにスペインは経度から見て、英国のほぼ真下に位置しているのである。しかし、スペインはこれまでフランコ将軍のヒットラーのドイツと同一時間にすることを望んでヨーロッパ大陸の時間(先述したように、ドイツやハンガリー、ポーランドなどと同じ時間)を1940年に採用したのである。戦争終結後もそのまま時間の変更なしで今日まで来ている。
だから、国境を分かち合っているポルトガルとは1時間の時差があるにも拘わらず、距離の離れている東欧諸国とは同一時間になっているという矛盾を抱えているのである。
スペイン現政府はこの機会を利用して、スペインの時間帯を英国のグリニッジに合わせるという考えも持っており、それを専門家に一任して検討させる方針を決めている。特に、スペインの北部はグリニッジの時間帯を採用することの要望が2006年頃から強くなっている。また、アフリカ沖にあるカナリア諸島はスペイン本土よりも1時間遅らせているが、それを本土と同一時間にするという政府の考えである。(参照:「
El Mundo」)
日本でオリンピックの開催に合わせてサマータイムの採用を検討しているようであるが、唯一のメリットは夏に日が暮れるのが遅くなって仕事を終了したあとも街はまだ明るく消費意欲やレジャーを楽しむ機会が時間的に増えるというだけである。しかし、それは余暇を過ごすことが上手なスペイン人だからこそ可能なのだろう。サービス残業を強いられることが多い日本で果たしてそういう効果が出るのかは疑問だ。
その程度のメリットしかないのだから、それだけで敢えて6か月程度サマータイムを設けるだけの意義はない。仮に、採用しても1年で終わるような感が筆者にはする。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。