空腹に絶えかねて放牧中のヤギを食べ、窃盗で逮捕された外国人実習生も
これら外国人農業労働者の労働環境の悪さにも定評がある。何年か前、技能研修生を含む移住労働者問題に取り組んでいる労働組合関係者からこんな話を聞いた。
栃木のイチゴ産地での話だが、実習先の農家(雇用主)にパスポートを取り上げられ、納屋に作られた宿舎で寝起きさせられ、ろくに賃金も払ってもらえなかった中国人研修生の話だ。
3人いた中国人研修生はある日、手に手を取って逃げ出し、成田に向かった。途中、相談に乗ってくれていた労働組合に「いま逃亡中」と電話、労働組合側は急きょ人を成田に派遣し、カウンターで待ち構えた。やがて研修生たちが到着、それを追って雇用主も現れた。労働組合側は研修生を保護するとともに雇用主と交渉してパスポートを取り戻した。
岐阜県美濃加茂市では、ろくに食事がとれずに、除草で放牧されていたヤギを食べて、窃盗で逮捕されたベトナムからの実習生もいた。2014年8月のことだ。
長野のトマト農園で働いていた2人のベトナム人は、その後の裁判でその厳しい労働実態が明らかになった。労働時間は毎日午前6時から翌午前2時まで。午後5時までは自給は750円だが、そのあとが収穫1袋いくらの出来高払い。1000袋詰めた日もある。「寮」は農機具小屋で、トイレもない。約2平方メートルの部屋で寝起きし、家賃として月2万円を給料から差し引かれた。
国家戦略特区では、民間の派遣会社が外国人農業労働者の管理を行う
2017年の、「反貧困」を掲げたデモ。次は外国人労働者がこれに加わる!?
2018年8月16日から17日にかけて開かれた国連人種差別撤廃委員会では慰安婦問題や人身売買、ヘイトスピーチやアイヌ差別と合わせて、日本の外国人技能研修生の実態が問題になった。
国連側から日本政府に対し「研修制度は人権保護の目的においては不十分であり、技能実習生の多くが入国前に借金をしているために、搾取されやすい状況にある」という指摘があった。
日本における外国人農業労働者は、現在の政府管理下にある技能実習生でさえ、こうした実態に置かれている。しかし国家戦略特区では、外国人労働者の農業への受け入れで主役になるのは派遣会社で、運営は民間に移る。
ブラック雇用を生みだし、貧困拡大の温床となったと批判されている派遣制度。それがそのまま、言葉もできず日本の法律知識もない外国人労働者に適用されることになる。
派遣労働者である外国人農業労働者は、実際に働く農場や農産物加工工場に雇用責任はない。都市部ならともかく全国の農山漁村に働き場が散らばったら、労働基準監督署も管理のしようがない。 長時間の過重労働、賃金未払い、人権侵害の温床となることは目に見えている。
<取材・文・撮影/大野和興>