米軍迎撃シミュレーションから垣間見える、イージス・アショア日本配備計画の「不自然さ」

イージス・アショア日本配備理由に見る「不自然さ」

 一方で、日本配備のイージス・アショアはどうでしょうか。  図4に合衆国が検討している北朝鮮ICBMブーストフェーズ迎撃の図を示します。北寄りの軌道がボストン、シカゴ、デンヴァー、アラスカを狙う物です。そして、東寄りにハワイ、東京、グアムへ向けた軌跡があります。  北朝鮮からの対米ICBMはアラスカを通りますので、早期警戒、追跡レーダー極東に配備すれば既存のアラスカ配備GMDカリフォルニア配備GMD迎撃可能と思われます。更に東海岸にGMDを配備する構想があります。
ブーストフェーズ迎撃1

図4 北朝鮮による弾道弾攻撃の軌跡とブーストフェーズ迎撃の可能性
(左)液体燃料ICBM (右)固体燃料ICBM 赤い部分が迎撃可能領域 
pp2-14, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

 図5ではブーストフェーズ迎撃可能な射点を描いていますが、北朝鮮に接近するだけでなく、中国領、ロシア領海、ロシアの防空識別圏内になりますので実現可能性はないです。  むしろこの図では、日本上空を通る対ハワイ、対グアム弾道弾の軌跡に興味を持たれます。  対ハワイICBMは秋田上空を、対グアムIRBMは北九州、山口上空を軌跡が通ります。  対東京MRBMは皇居を標的と想定しています。適当な標的設定なのですが、いくらシミュレーションだとしても余りよい気はしません。
ブーストフェーズ迎撃2

図5 北朝鮮による弾道弾攻撃の軌跡とブーストフェーズ迎撃の可能性
液体燃料ICBMの場合(固体燃料ICBMでは迎撃射点がほぼ陸上となる) 
pp2-14, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

 図6は洋上イージスMDによる北朝鮮MRBM(準中距離弾道ミサイル。射程1,000-3,000km程度)の迎撃シミュレーションです。現行のイージスMDでは、1隻では覆域が狭く、2隻必要であることが分かりますが、他のXバンドレーダーなどと連携する能力向上型(BMD5.0シリーズ)では1隻で済むことが示されています。この図は2012年の物ですから、青森県の車力に前方展開Xバンドレーダー(FBX-T)が示されており、後年配備された京都府経ヶ岬に配備されている前方展開Xバンドレーダー(FBX-T)は示されていません。そして何故か山口県の萩に前方展開Xバンドレーダー(FBX-T)が想定されています。
北朝鮮MRBM迎撃シミュレーション

図6 洋上配備イージスMDによる北朝鮮MRBM迎撃シミュレーション
濃黄色は現行のイージスMD(LOR)、 淡黄色は能力向上イージスMD(EOR)
pp3-20, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, 2012, National Academy of Sciencesより引用

 現状では車力と経ヶ岬に配備されているXバンドレーダー(FBX-T)と能力向上洋上イージスMD(BMD5.0シリーズ)1隻に十分なSM-3 Blk IA/Bを搭載すれば、MRBM防衛には、ほぼ十分となります。それでは不十分ならば、THAADを順次配備すれば、ほぼ理想的な弾道弾防衛態勢が整備できます。また、洋上MDイージス艦の弾庫が足りないのならば、思い切って領域防衛専用の弾庫艦(兵器庫艦:アセーナルシップ※)を新造し、随伴させるということも考えられます。いずれにせよ、より有効且つ安価に出来ることは幾らでもあります。  私は、能登半島にイージス・アショアを配備すると言う話なら、首都防衛には好適とは言えませんが可といえる位置ですので、まだ納得できました。しかしなぜ、秋田市と萩市と言うミッドコース迎撃にきわめて不利な場所に2基ものイージス・アショアが必要なのでしょうか。全く理解できませんし納得もできません。  あまりにもこの計画は不自然です。不自然な行動には必ず意図があります。  本稿、続きます。次回は、イージス・アショア日本配備の意図を推測してみます。 ※アセーナルシップとは、かつて合衆国海軍で検討された、ミサイル垂直発射機(VLS)を百~数百基搭載し、他には個艦防衛兵器や最低限の電波兵装以外搭載しない艦のこと。索敵からミサイル発射管制は、並走するイージスシステム艦に任せる。そのため兵器庫艦や弾庫艦と呼ばれた。実現した船はない。強大な戦力を擁するが、自らはその戦力を運ぶだけで、ミサイルを撃ち尽くすと帰る他ないと言う、艦長にとっては複雑な心証の艦 『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第4回 ※読者の皆様から頂いた質問にコロラド博士が答えるFAQが牧田氏のFBに開設されました。そちらも併せて御覧ください。 <文/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado photo/USMDA via flickr(CC BY 2.0)> まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガを近日配信開始予定
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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