事実上の「移民」受け入れを進める安倍政権。真に受け入れるなら「人として」生活できる制度づくりをせよ
2018.08.30
大変革が起きるのはたしかだが、建前は変わらずといったところ。しかし、新制度には課題も多い。「どの分野で、どのような要件で受け入れるかは省庁単位で決めるので、なし崩し的に拡大する可能性があります。実際に受け入れ職種は直近の報道では15に増えており『’25年までに50万』という人数も需要ベースではさらに増えるでしょう」(鈴木氏)
前出の財務官僚もこう続ける。
「法案がまとまれば受け入れ基準も変わるはずです。現に技能実習生もなし崩し的に拡大してきましたからね。今後も各省庁は経済界の要望に応じて動くでしょうし、何か問題が起こったときには責任のなすり合いになるはずです」
少子高齢化で労働力の減少が叫ばれるなか、外国人労働者の受け入れ拡大に舵を切ろうとする日本。だが現状の方針は、日本経済を悪化させる可能性を孕んでいる。
「ある意味で現在の外国人労働者の受け入れ方針は、日本の古い産業や制度を守るものとも言えます。なお政府は高度外国人材の受け入れを推進していますが、日本の大企業には特定分野のエキスパートに高い報酬を支払う仕組みが整っていないように見えます」(津崎氏)
では、より優秀な人材を集めるには何をすべきなのか。津崎氏は次のように提言する。
「管理だけを強化すれば『自分たちは日本にいることを望まれていないのか』と感じる人が増えてしまう。現状の受け入れ制度は劣悪な労働環境を温存する側面もあり、みんなが人間らしく働き、生活できる制度を整えるべきです」
日本が事実上の移民国家になる日が急速に迫っている。今後もその流れを注視していきたい。
取材・文/古澤誠一郎
― 日本が移民国家になる日 ―
なお7月の「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」では、河野太郎外務大臣からは「生活者として外国人材を受け入れることが不可欠」との言葉も出た。さらに日本語教育の充実、医療・保健・福祉サービスの提供などの方針も示されたが、「包括的な基本法が制定されていないため、予算措置の根拠がない」と鈴木氏。
「外国人を“労働力として受け入れる”準備が進められる一方で、『共に生きる』ための制度や環境の整備は遅れています。従来の制度の見直しや外国人の権利保障、地域社会への支援は不十分なままです。NPOや自治体の取り組みによって徐々に整ってきているとはいえ、来年4月開始という早急な受け入れ拡大では、対応しきれない自治体も増えるはず。このままではいたずらに不安や問題を引き起こす可能性もあります」
来年4月から始まる予定の新在留資格では、一定の試験にパスすれば家族の帯同や永住への道も開かれる。しかし、それまでは家族の帯同は変わらず不可のままだ。
「人権上の観点からも帯同は認めていくべきですが、そのためには社会保障や教育などのライフサイクル全体に対するケアが欠かせません。当然そのためのコストも必要です。また、今の技能実習生の給与水準では家族と一緒に定住するのは難しいでしょう」(鈴木氏)
なお、薄給で技能実習生を雇用する企業は、衰退産業に多い。
「たとえば縫製業では中国などの工場が力をつけ、日本の一部の企業は放っておけば倒産するところを、技能実習生が維持している側面があります。自由貿易が拡大するなかで、斜陽化する産業とその労働者をどう扱うのかは、真剣に考える必要があります。また製造業では、外国人労働者を低賃金で雇い続けることが、機械化の妨げになることもあります」(津崎氏)
受け入れ拡大で経済はむしろ悪化?
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