実際、オリンピックに経済効果に疑問を呈する研究も少なくない。
これにはインディアナ州立大の経済学者、ジェフリー・G・オーウェンによれば、オリンピックのスタジアム建設などに伴って生じる雇用は、もし完全雇用の状態ならば他の雇用を奪って生じたことになるため意味が無いとしている。(参照論文:「
Estimating the Cost and Benefit of Hosting Olympic Games: What Can Beijing Expect from Its 2008 Games? 」)
ちなみに、この論文は山形浩生氏が和訳してくれているので、ぜひご一読していただきたい。(参照:
「あらためて、オリンピックに経済効果なんかないこと。」via 山形浩生の「経済のトリセツ」CC BY-SA 3.0 )
また、建設されるインフラはスポーツ施設以外に使いようがない上に、建設が終わればそこに従事した労働者が失職することには変わりないため、他の公共事業と大差ない効果しかないとしている。
1996年のアトランタ五輪でも、一時的に雇用が増えたものの短命に終わったし、観光資源としても他の観光地への客を奪っただけに終わった。2000年のシドニーでも、建設された施設がその後及ぼした経済効果についてはむしろ「支出を増やすもの」になっているとしている。2004年のアテネ五輪では、当時の施設が廃墟になった有り様はネットでも話題になった。トリノ、北京、リオ……いずれもすでに「前例」がある。(参照:「
まるでゴーストタウン、廃墟と化した世界の五輪開催地10選」)
2012年の日本経済新聞プラスワンが配信した記事でも、“五輪を開いた後、景気が悪化した国の方が多かった。2008年に北京五輪を開いた中国は、前の年に14%を超えた経済成長率が開催年と翌年は9%台に鈍化。その前のギリシャも開催後にブレーキがかかり、今は債務問題で国中が大混乱している。1988年のソウル五輪以降、夏季6大会で成長率を比べると、開催年よりその翌年が上昇したのは米国だけ”とある。(参照:日経スタイル「
五輪後に景気が悪くなる理由 夏季6大会で例外は1つだけ」)
’64年の東京五輪の際は、当時の日本政府の対応だけでなく、日本経済が設備投資や技術革新などまっとうな経済成長の要素があったことが功を奏して不況を1年で脱出することができた。
しかし、今の日本はイノベーションも枯渇し、人口減は進み、デフレを脱したとは言えず、賃金も全体が底上げされたとは言い難く、株価だけは悪くはないものの社会で好景気を実感する声は決して多くない。こんな状況下で、経済的に負のインパクトが大きいとしか思えないオリンピックを開催、さらにサマータイム制など各業界に大きな混乱を招きそうなことまで導入しようとしている……。
下手をすればバラ色の未来どころか、オリンピック景気の副作用で立ち直れなくなる可能性だってあるのではなかろうか……。
<文/HBO取材班>