建設中に決壊したラオスのダムは、日本の資金によるものだった――韓国叩きに終始するメディアが報じるべきこと

日本の支援で造られたダムが契機となり、急ピッチで進むラオスのダム開発

1200px-Katang_youth_casts_fishing_net_in_Laos

ラオスの人々は長年、小規模漁業などメコン河の恵みで生計を立ててきた。しかし、ダムによる水位の変化が生態系にも悪影響を及ぼしている(写真/Big Brother Mouse)

 現在のラオスでは、タイなど国外への売電を目的とした大規模水力発電事業が急ピッチで進められている。しかしラオスは一党独裁のもと、人々が自由に発言したり、集会を行ったりすることもできない国だ。 「事業が行われる現地の人々の安全や権利を軽視した性急なダム開発が、今回の決壊事故につながった」と木口さんは見ている。そして、ラオスがダム開発をその経済成長戦略の柱とした背景には、日本の影響も色濃くあるというのだ。 「日本政府が世界銀行(世銀)やアジア開発銀行(ADB)を通して支援を行い、『ラオスの貧困削減と環境保全につながる持続的な開発のモデル』として2005年に着工し、2010年から創業を開始したのがナムトゥン2ダムです」(木口さん)  この事業を契機に、ラオス政府は急速なダム開発へと本腰を入れた。同事業の前に操業されていた1MW以上の水力発電事業はわずか10基だったが、現在は操業13基、建設段階が22基、MOU(了解覚書)段階39基、事業開発合意の段階は23基、という水力発電ダム計画が進んでいる。  「しかしナムトゥン2ダム建設では、強制移住させられた約6200人の住民の生計回復が困難であること、ダム下流の水量の変化による洪水悪化などの問題が起きています。今後建設されるダムでも、同様の問題が起きる恐れがあるのです」(木口さん)

大規模ダム建設に依存するラオスの開発政策と、援助国や融資機関の役割を見直すべき

 木口さんは「今回の悲惨な事故に多くの人びとを巻き込んだのは、一義的には関連企業の責任です。ともかく、被害にあった人々のことを第一に考えて行動してほしい。しかし、企業のダム建設を可能にした融資機関、さらには大規模ダム建設に依存するラオス政府の開発政策とそれを後押ししてきた援助国・融資機関の役割についても検証する必要があります」という。 「昨今の予測不能な天候に対応できない可能性の高い既存のダムは、運営の停止を。環境・社会影響に比して収益の見合わないダム計画について、融資機関や援助国は中止を検討するよう求めること。大規模ダム建設を推進する、対ラオス開発援助政策自体を改めるべきでしょう」(木口さん)  セピアン・セナムノイ・ダムの決壊を、格好の「嫌韓ネタ」として消費するのではなく、自国の政府や企業の姿勢も問われている問題として取り上げることが、日本のメディアに求められている。 <取材・文/志葉玲>
戦争と平和、環境、人権etcをテーマに活動するフリージャーナリスト。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、共著に『原発依存国家』(扶桑社)、 監修書に『自衛隊イラク日報』(柏書房)など。
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会