モランディー橋は1967年に完成している。当時、コンクリートというのは無限なほどに信頼性がもたれていたという。技術士モランディーはこの橋の建設にプレストレスト・コンクリートを使用。コンクリートは圧縮に強く、引っ張りに弱いという特性がある。そこで引っ張りに強い鋼材をかみ合わせて荷重がかかった時に引っ張りが発生しないようにするという工夫をしたものがプレストレスト・コンクリートである。
ところが、問題はタワーから路面を支える主桁との間に山の斜面を描くようにメインケーブルを張るのであるが、モランディーはそれをコンクリートで被服したのである。当時、コンクリートは全幅の信頼が置かれていた故にそれが容易に劣化して腐食することは配慮されていなかった。しかも、メインケーブルを覆っているコンクリートが腐食して、中の鋼鉄もさびが生じるようになるということが十分に配慮されていなかった。
ミラノ工科大学のマレルバ教授は、メインケーブルの数も少ないことを挙げている。同様に完成から25年目で1番目のタワーのメインケーブルを取り換えねばならなかったという事態も発生していることも指摘した。(参照:「
El Pais」)
頻繁に修復工事が必要で、90年代末には新しく橋を建設するとした場合の費用の80%がこの橋の修復費用になっていたと指摘しているのはジェノバ大学工学部の鉄筋コンクリート構造を専門にしているブレンキチ教授だ。更に彼は、モランディーはコンクリートの粘性変形の計算を誤っていたこと。そして彼は直観力は非常に優れた技師であるが、腐食の数値を割り出すということには長けてはいなかったことを2016年に言及している。(参照:「
El Mundo」)
カタルーニャ工科大学のカサス教授は、「現在の基準では橋は100年耐えるものであることとされている。この種のタイプ(斜張橋)の構造上の弱点はタワーと主桁を繋ぐメインケーブルである」とした上で、ジェノバの高架橋の場合は「土台に問題があったのかもしれない」と述べている。更に、「気候風土も作品の劣化に大きく左右する場合もある」としている。(参照:「
El Pais」)
同様に問題にされねばならない点は、そこを利用する車の台数の変化である。現在、年間で2550万台がこの橋を通過しているという。この30年で40%の増加だという。この橋が完成した1967年当時、現在通過している車の台数は当然予想できなかったはずである。即ち、それに比例して橋に与える振動も増え、燃料の燃焼で大気に発散するCO2などもコンクリートや鋼鉄を劣化させることになる。これらの現在指摘されている問題点が当時配慮されて建設されたとは思われないのである。(参照:「
El Mundo」)
今回の崩落の解明には数か月を要するとされている。それまでに色々と隠されていた問題点が表面化すると思われる。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。