ほとんど断熱されていない、昭和55年以前の断熱基準の住宅が76%を占める(出典:国土交通省)
とはいえ、自宅でエアコンを使ったり、学校にエアコンを設置したりすればすべてが解決するわけではない。目先の熱中症や体調不良は防げたとしても、社会全体の電力消費を増やすことになるため、光熱費の増大はもちろん、気候変動を加速させることにもつながる。
見過ごせないのは、住宅であれ公共施設であれ、日本の建物の性能が著しく低いレベルにあるという事実だ。国土交通省によると、日本の既存住宅のおよそ8割は、ほぼ無断熱のレベルにあり、気密性能も低い(※3)。学校や体育館などの公共施設はさらにひどいレベルと言われている。
※3…国土交通省が2012年にアンケート調査した日本の既存住宅の断熱レベルごとの割合。まったく断熱されていない「無断熱の住宅」が39%。ほとんど断熱されていない「昭和55年以前の断熱基準の住宅」が37%、合わせて76%ある。
「断熱」とは、建物の壁や床、屋根や窓などを厚くしたり、外部の熱を伝えにくくしたりといったこと。「気密」とは、建物の空気が抜けるすき間を少なくすることだ。一般的に断熱・気密というと、冬の寒さ対策のように捉えられがちだが、実は夏の暑さ対策にも大いに関係がある。
建物の断熱・気密性能が低いと、エアコンを稼働させてもせっかくつくった冷気の大半がすき間から抜けてしまい、なかなか涼しくならずに光熱費が跳ね上がる。貧困家庭では、光熱費を気にしてエアコンを控えなければならないケースもあるだろう。
また、多くの自治体がエアコン設置を躊躇してきた理由にはコストの問題があるが、ここにも建物の性能が貧弱であることが大きく関係している。エアコンは当然、出力の大きいものの方が値段は高くなる。建物の断熱レベルが低いことで、より出力の大きな設備を設置しなければならないため、初期投資がかさんでしまう。
さらに、設置した後もすき間から漏れるのでランニングコストが高騰する。逆に、建物の性能がしっかりしていれば、初期投資もランニングコストも大幅に圧縮することが可能になる。
エネルギーにかかるコストの問題は、国レベルでも問題になっている。家庭や学校に送られてくる電気の大半は、元をたどれば石炭や天然ガスなど、海外から大金を払って買ってきた資源を、発電所で燃やして作られている。
建物の性能が低いと、その貴重な資源を使ってせっかく生み出した冷たい空気を、どんどん捨てていることになる。これは、個人や自治体の光熱費の問題を超えて、国家財政にとって大きなマイナスと言える。