共産党が大躍進。期待はブラック企業規制法案の国会提出か?

 議席数を減らしたのに「自民党圧勝」という新聞の大見出しが躍った総選挙。与党の強さは下馬評通りだったが、共産党の大躍進に驚いた人も多かったはずだ。獲得議席は選挙前の8から21へ。いったいどうしてこんなに急増したのだろう。 ⇒【動画】沖縄一区、不破前議長の街頭演説
http://youtu.be/3vmquuPbZpY
 選挙前に<「貧困と軍国主義化 共産党躍進の予感」>という記事を発表していたジャーナリストの田中龍作氏は、共産党候補者の街頭演説を取材し、<インタビューに応じた聴衆はいずれも、貧困や右傾化に不安と怒りを抱いているようだった。>と現場の雰囲気を紹介、次のようにまとめた。 <自民党が貧困層を作り出し、軍国主義化を進める。共産党は貧困層に救いの手を差しのべ、軍国主義化に待ったをかける。作用と反作用の関係だ。他の野党がダラシないと言ってしまえばそれまでだが、中道なき社会は危うい。>  わかりやすい対立図式だ。だが、それは共産党の街頭演説の聴衆になるような有権者層だからこその反作用の仕方のようにも思える。軍国主義や貧困といったズバリの問題ではなく、もっと漠然とした安倍政権への批判票が共産党に流れた結果、大躍進を果たしたのではないだろうか。Bloomberg.co.jpというサイトの記者も選挙前に政治学者を取材、記事中で次のようにコメントを紹介していた。 <日本大学の岩井奉信教授は12日の取材で、共産党をめぐる現状について「野党らしい野党は共産党しかいない。不満票の受け皿になっていることは間違いない」と指摘。その上で、「共産党が政治を動かせるかというと、動かせないわけだから、あるところで限界が来る」と話し、「民主党が受け皿にならないといけない。共産党が票を取るということは、民主党批判でもある」との見方を示した。>  民主党が冴えなかったから、共産党が伸びた。そうかもしれない。では、今回の共産党躍進は、たまたまの政治環境による棚からボタモチ式の幸運だったのだろうか。いや、それだけではない、共産党は選挙戦略もうまかったのだと、ジャーナリストの安積明子氏が、東洋経済オンラインの<共産党と公明党が今回の総選挙の勝者だ>と題した記事で指摘する。 <それ(筆者注:民主党の選挙活動)に比べて共産党は、若者の取り込み方が非常にうまい。まずは候補者にわかりやすくキャラ付けする。「吉良はアイドル系だけど、池内はロック系。好きなバンドはスミスだ」。共産党関係者がいち押しするのは、東京12区から出馬した池内沙織氏だ。メガネをかけ、特にはパンク風に髪を逆立てるのは、同じ年齢の吉良氏と差別化しているところか。また既婚者なので、当選後に吉良氏のように男性問題で週刊誌ネタになる心配はない。>  センスのなさでは昔から定評のある共産党だが、いつの間にかに垢抜けていたらしい。安積氏は、さらにこうも言う。 <共産党は、若者ばかりでなく”老人パワー”もうまく活用した。12月10日、不破哲三元共産党議長が京都市四条河原町で演説したのである。「いてもたってもいられなくなった」。84歳の不破氏が街宣でマイクを握るのは、実に9年ぶりだ。現役時代より白髪が増え、眉も白くなった。だがその声は張りがあり、話す内容によどみがない。安倍晋三首相の歴史認識を強く批判し、高らかに自共対決を宣言。そんな不破氏を一目見ようと、5200人もの聴衆が集まったという。現場の政治にはない「本物」を、有権者は求めているのか。>  どんな様子だったのだろうとググってみたら、20分超の演説をまるごと視聴できるyoutubeの動画が出てきた。久しぶりに動く不破哲三を見た。顔や姿はかなりのご老体だが、演説はたしかにイケていた。時折、巻き舌で安倍政権を「ネオナチ」批判するなど迫力充分。私は共産党の支持者ではないが、ずっと見ていると、不破哲三が生き神さまのように思えてこなくもない。自然と拝んじゃったお婆ちゃんとか、けっこういたかもしれない。  一方、ネットの世界でも、<日本共産党の躍進にネット興奮 >という事態が起きていたらしい。今回の選挙で21の議席を獲得した共産党は、単独での法案提出権の確保という大きな権利を手に入れたのだが、<保守的な論調の強い2ちゃんねるにも歓迎のコメントが殺到した>という。 <議席数21は与党に対してあまりに少なく、法案を出しても簡単に否決されてしまう可能性がある。しかし、ブラック企業規制法案やサービス残業規制法案を否決することは、与党にとってもイメージダウンになるので、議案提案権も決して「無駄ではない」というのだ。>  躍進した共産党は、ブラック企業問題のさらなる追及役を期待されたわけだ。選挙期間中、共産党が訴えてきた主なポイントは「消費増税の中止」「格差拡大のアベノミクスをストップ」「集団的自衛権の行使反対」「原発再稼働ストップ」あたりで、いつも通りの“何でも反対”一本槍だった。でも、法案提出権を手に入れたからには、より説得力のある立案力が求められる。真の実力はこれから試される。  共産党の躍進をめぐるニュースやコラムなどをチェックしていて、ちょっと物足りなかったのは、保守層やタカ派からの批判の声の少なさだ。 (べつにタカ派媒体でもない)日刊ゲンダイが、<「重要な成果」と自賛…議席増にはしゃぐ共産党の虚しい躍進 >という記事で、<“健全な野党”を標榜している共産党だって、政権を取る気はない。本気で政権を取るつもりならば、野党共闘しかないのは歴然なのに、そうしない。結局、共産党の存在が野党への票を分断させ、安倍自民党を勝たせたようなものなのだ。>と書いていたが、はっきり言ってこれは難癖の類いだ。  もう一つ見つかった批判記事は、<日本共産党への警戒を緩めるな >と題する、以下のようなもの。 <日本の有権者は共産主義の実態を理解しているのだろうか、と懸念する。冷戦時代、東西両欧州の架け橋的な位置にあったオーストリアは共産主義諸国の実態を間近に目撃してきた。連日、旧ソ連・東欧共産政権から人々が命がけで逃げてきた。オーストリアは冷戦時代、200万人の政治難民を収容した。だから、大多数の国民は共産主義が間違った思想であり、国民を幸福にしないことを教えられなくても知っている。>  ウィーン在住者の手による記事のようだが、つまりは真正面からのイデオロギー批判だ。こういう声もあって当然、と一瞬思ったが、この記事を載せたのはViewpointという媒体。反共産主義で有名な統一教会の新聞『世界日報』のオンラインサイトなのであった。  読売新聞をはじめとするメジャーな保守媒体は、まだ弾をこめている最中なのか。それとも、ストレートニュースを流す以上のことをしたら共産党が余計に活気づくだけ、とスルーを決め込んでいるのだろうか。  いずれにせよ、次の国会で共産党がどんな独自法案を出してきて、それに対して他党はどうリアクションをとるのだろう。ちょっと渋すぎる興味の持ち方かもしれないが、国会中継が楽しみである。 <文/オバタカズユキ> おばた・かずゆき/フリーライター、コラムニスト。1964年東京都生まれ。大学卒業後、一瞬の出版社勤務を経て、1989年より文筆業に。著書に『大学図鑑!』(ダイヤモンド社、監修)、『何のために働くか』(幻冬舎文庫)、『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(朝日新聞出版)などがある。裏方として制作に携わった本には『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)、『統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)などがある。
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