米中貿易戦争は、これまで傍若無人ともいえる手段で経済発展に突き進んできた中国に対して、トランプ政権が明確にNOを突きつけた格好だ。
「石油も穀物も、世界市場ではドル建てで決済するので、現状ではアメリカが圧倒的に有利です。経済力が落ちれば、かつてのようにカネに物を言わせたアフリカ支配などはできなくなるでしょう」
アメリカが中国を抑え込みにかかっている以上、中国経済が減速し、国際的なプレゼンスが低下するのはほぼ必至の状況といえる。それを踏まえて、投資家たちはどう動けば良いのか。
「たとえば、中国との結びつきが強いとされる企株の株式を空売りするなどが考えられますし、トランプ大統領の発言を逐一チェックすることが重要でしょう。トランプ氏が中国に対し強気な発言をすれば中国関連銘柄は下がり、緩和する話をすれば上がる傾向にあります。アメリカ経済と世界経済、日本経済は連動しているので、アメリカ経済にプラスの発言をすれば日本の株価も上がる見込みが高いでしょう」
中国に製造拠点がある日本の輸出業者などは特に、リスクヘッジが必要になるだろう。こうした米中貿易戦争は7月末時点ではいったん、株価の面ではリスクオンとなったものの、予断を許さない。今後は、軍事衝突の可能性もある。
「中国側には、軍事オプションしか打つ手がないのです。追い詰められると、南シナ海での軍事行動を一段と激化させる恐れがある。アメリカとしても、南シナ海には民間人がいないので、軍事行動を取りやすい」
イギリスの動きも見逃せない。「イギリスのメイ首相は昨年10月に来日して、日英の安全保障に関して事実上の同盟関係を結びました。イギリスとしては、もう一度香港を取り戻したいのかもしれません。それには、南シナ海での小規模な武力衝突によって、『中国が戦争に負ける』ということが条件になりますが」
世界のパワーバランスだけでなく、領土の変更まで起こりうる米中貿易戦争は、年内にも大きな動きがあると予想される。今後も要注目だ。
《米中双方の主な関税対象(ともに500億$規模)》
★アメリカ 1300品目
金属、半導体装置、輸送機器、電子機器、エンジン、モーター、船舶、ペースメーカー、薬剤、モーター、人工歯など
★中国 106品目
大豆、小麦、綿花、タバコ、トウモロコシ、牛肉、自動車、航空機など
(米中政府発表より)
渡邉哲也氏
【渡邉哲也氏】
作家・経済評論家。貿易会社勤務後、独立。内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評がある。近著に「
これからヤバイ 米中貿易戦争」(徳間書店)
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