同盟国にまで戦線が拡大した貿易戦争――トランプ政権との交渉へ何を教訓にすべきか?

細川昌彦

写真/IoSonoUnaFotoCamera via flickr (CC BY-SA 2.0)

 9日からワシントンで日米間での新貿易協議(FFR)がスタートする。

 ここ3か月の間にトランプ政権は中国、北朝鮮、欧州との大交渉を繰り広げてきた。注目すべきは、そこから垣間見ることができるトランプ政権の特色だ。それはこれから協議に臨む日本にとって貴重な教訓になる。

第1の教訓…複数ルートで保険をかける

 先般の米欧首脳会談で米国と欧州(EU)の間の貿易摩擦が一時休戦の合意がなされ、貿易戦争突入がギリギリ回避された。マルムストローム欧州委員(貿易担当)とライトハイザー通商代表との閣僚交渉では、ライトハイザー氏は要求ばかりを繰り返し、交渉は暗礁に乗り上げていた。EU側は同時にセルマイヤー官房長に、比較的物わかりのよさそうなクドロー国家経済会議(NEC)委員長とコンタクトさせていた。このパイプを使ってEUは共同宣言文の案を首脳会談直前に提示してクドロー委員長に託したのだ。トランプ大統領には会談当日の朝、クドロー委員長経由で上げられた。

 首脳会談本番では、ライトハイザー氏が相変わらず強硬意見を繰り返したものの、トランプ大統領本人の口から「まあ、いいじゃないか」となだめる言葉が出て、「勝負あった」であった。予想外の決着に驚いたのは、ユンケル委員長の手腕に期待していなかったEU各国だ。

 だからと言ってクドロー委員長を過大評価してはならない。決してトランプ政権内で中心的な役割を果たしているわけではない。敢えて言えば、評論家の域を出ないので、交渉の前面に出ることもない。

 その彼がどうして今回そういう役割を担えたのか。

 たまたまトランプ大統領が中国のみならず同盟国にまで戦線を拡大して、貿易戦争を仕掛けることへの米国内からの批判も高まっていたこともトランプ大統領に心理的に影響していただろう。そこにタイミングよく会談直前に妥協案を持って飛び込んできたのがクドロー委員長だったのだ。EUにとっては「棚ボタ」だ。

 トランプ政権では誰一人としてトランプ氏の全面的な信頼を得ている閣僚がいるわけではない。閣僚は状況に応じて硬軟織り交ぜて交渉するために使い分けられている。最後はトランプ大統領本人が決める。しかも本人に軸があるわけではないので、直近に受けた説明に影響される。

 さらにトランプ大統領の心理状態、頭の中まで予測することは不可能だ。本人がどう反応するかわからない。そうした相手との交渉にはさまざまな状況に柔軟かつ臨機応変に対応しなければならない。そこで交渉パイプを複数持って「保険をかけておく」ことが不可欠だ。

 反対に、苦い経験を味わったのが中国だ。

 5月、米中間の貿易協議はムニューシン財務長官と劉鶴副首相の間で一旦決着を見た。中国の輸入拡大の約束で米国が制裁発動を当分見合わせるという合意がなされたのだ。ところがこの結果に驚いた強硬派のライトハイザー通商代表がトランプ大統領のところに飛び込んで、妥結すべきでないことを直談判して、ひっくり返された。

 驚いたのは中国だ。中国の米国に対する不信感は強烈で、それが今日まで尾を引いている。国内的にも習近平政権による対米交渉のあり方にも厳しい目が向けられている。

 EUの対応と中国の対応の違いとそれぞれの結果。それがこれからFFR交渉に臨む日本にとっての貴重な教訓だ。

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中身より、トランプ受けする「刷り込み効果」

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