前澤氏をバッシングするほどのエネルギーもない経営者たち
佐々木さんの意見も、視聴者の意見も理解できる。一口に「おじさん」といっても、今は40代の団塊ジュニア世代だけで1学年につき200万人もいるのだから、多様なのは仕方がない。世代的にいえば前澤氏は明らかに中年だろうが、バッシングされているかどうかは個人の見方次第だ。
ラジオ出演が終わったあと、30代後半~40代の男性たちに前澤さんをどう思うか聞いてみた。皆、彼に関する報道を冷めた目で見つつゴシップとして消費するのがせいぜいで、バッシングするほどのエネルギーもないように思われた。それでもあえて深掘りしてみると、ある経営者男性は次のように言う。
「彼が実名でSNSをやる意味がわからない。僕も芸能人と交際したことはあるが、それを公表しても反感を買うだけなので秘密にしていた」
芸能人と付き合っていたという告白の真偽は確かでないが、次の言葉は非常にうなずける。
「本当に会社や社会のことを第一に考えていたら、SNSなんて怖くてとてもやれたものではない。公表できないことが多すぎるからだ」
さらに、40代のある経営者は次のように述べる。
「社長業を続けてきて思うのは、仕事のやりがいは芸能人と付き合うとか華やかな人脈をアピールすることではないということだ。家族や社会のためになるかどうかを考えるようになってきた。これが年をとるということなのかもしれない。だから自分は前澤さんのようなタイプをあまり理解できない」
そう、多くの経営者は地味だ。がむしゃらに働いてきた30代を経て、家族のためとか社会のためとか、自分なりの大義名分をようやく見つけた40代。まだまだ現役で頑張っているが、周りには自分より年収が低い同世代もいるのでSNSでの発信には細心の注意を払っている。男の嫉妬が何より気持ち悪いことをよく知っているのだと思う。
SNS自体、一切やめたという声も多い。確か数年前のビジネス誌で、年収の高い経営者ほどSNSでの友達数が少ないという統計が出ていた。これは経営者の平均年齢が2018年で59.5歳(
出典)と高齢であることとも無関係ではないだろうが、40代の比較的若い社長でも炎上を恐れてTwitterをやらず、同世代からの妬み嫉みを恐れてFacebookをやらない、もしくは人の投稿を見るだけという人が多い印象だ。
こんな状態なので、女優との交際をSNSにアップする前澤さんを「異常だ」と感じる中年男性が多いのではないか。彼とは年収規模が違えど、数百億の資産を築いている経営者ですら前澤さんは理解できない。世界が違うと言う。まるで芸能界を見るような目で彼を見ている。
おそらく前澤さんは、一時期のホリエモンのようなビジネスタレント枠なのだろう。SNSでの発信で目立ち続けることで大衆の注目を集め、球団買収など将来への道筋をつけようとしている可能性もある。
この「大炎上時代」にSNSで刺激的な発言をする理由は、目立つことのリターンがリスクを上回っているからだ。常人にはとてもその神経が理解できない。常人でない上に分かりやすく目立つので、私たちのような大衆から消費される。前澤さんはそういう意味で、時代の寵児というよりは話題のタレントに近いと思う。
<文:北条かや>
【北条かや】石川県出身。同志社大学社会学部卒業、京都大学大学院文学部研究科修士課程修了。自らのキャバクラ勤務経験をもとにした初著書『
キャバ嬢の社会学』(星海社新書)で注目される。以後、執筆活動からTOKYO MX『モーニングCROSS』などのメディア出演まで、幅広く活躍。著書は『
整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)、『
本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)、『
こじらせ女子の日常』(宝島社)。最新刊は『
インターネットで死ぬということ』(イースト・プレス)。
公式ブログは「
コスプレで女やってますけど」