「霊障あり」不動産執行人が評価書にもこう記載する理由<競売事例から見える世界11>

「霊障」の正体は?

 これも霊障の一つらしいが、物件の水回りには方々から水漏れが発生しており、湿気とカビが原因という説も濃厚に感じられた。 「トースターは飛ぶし、屋根は落ちるし、天井も落ちるし……」  2階ベランダの防水が一部機能しておらず、水が溜まった部分が腐り天井が1階に落下、屋根瓦も施工が悪く剥がれており、トースターが飛ぶという点以外は全てが欠陥住宅で説明できるものだった。  さらに3階部分が図面になく、無理やりあとで取り付けられているという欠陥住宅に違法建築のおまけが付いた物件。  これらは霊障よりはるかに不動産価格を下げる要素となる。  実際に自殺してしまった旦那さんも少なからずこの欠陥住宅を原因とするようだった。  どこからともなくロクデモナイ業者を連れてきては高額で契約したうえ、施工後に倒産でトンズラされるという流れについて債務者自身から言及があったのだ。 「ちょっと責めたら死んじゃって……」  もちろん誰に責任があるわけでもなければ、そういったものを追及する気もない。  ただ、総合的に考えて「霊障」が全ての災いを招いているのではなさそうだということが伺える。

「霊障」も評価書に記載される

 ちなみにこのように競売物件で「霊」や「霊障」といったものが債務者から語られた場合、しっかりとその情報は評価書に記載される。  こればかりはやはり“見える人には見える”、“気になる人には気になる”からだ。  万が一にも霊が出るという情報を聞いておきながら無視し、落札者が霊被害を訴えた場合、債務者は確実に霊被害を報告しているため、不動産執行のチームに非が生じる。  そうなると「国家賠償」という一大事に発展する可能性もあるため、しっかりと霊や霊障といった情報は記載されるという寸法だ。  このような「霊」「霊障」の存在を語る債務者は少なくない。 「事故物件」や「精神的瑕疵物件」という言葉が独り歩きしているようにも思えるが、不動産関係者から見れば、「物理的」ではなく、「精神的」だけの瑕疵でお買い得に購入できてしまう物件ほどありがたいものはない。  中には何らかの知恵を持った占有者が、不動産執行チームの写真撮影を知った上で、室内を事件後のような状況に仕立て上げるケース、あるいはヤクザ屋さんの事務所であるかのように見せるケース、悪霊が多発するかのように印象づけるケースもある。  このように「精神的瑕疵」をクリエイトすることで価格を下げ、伝手のある業者に購入させては、“気にしない人”に売却という事例も少なくない。  闇雲に「怖い怖い」と様々なメディアから植え付けられる定型化した恐怖。  もちろん我々の中に“何かを怖がりたい”という概念がある以上否定はしないが、一つ立ち止まって考え直してみれば、それは本当に怖いのだろうか。何者かにその思いを利用されているだけではないだろうか。 【ニポポ(from トンガリキッズ)】 ライターの傍ら、債務者の不動産を競売にかける『不動産執行』のサポートも行う。2005年トンガリキッズのメンバーとしてスーパーマリオブラザーズ楽曲をフィーチャーした「B-dash!」のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。また、北朝鮮やカルト教団施設などの潜入ルポ、昭和グッズ、珍品コレクションを披露するイベント、週刊誌やWeb媒体での執筆活動、動画配信でも精力的に活動中。 Twitter:@tongarikids オフィシャルブログ:団塊ジュニアランド! 動画サイト:超ニポポの怪しい動画ワールド!
全国の競売情報を収集するグループ。その事例から見えてくるものをお伝えして行きます。
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