タイの「金」の中心地はこのバンコクの中華街ヤワラーとなる
タイはどこでも市中に「金」を取引するゴールドショップである「金行」が数多くある。
街中や商業施設にある金行で売られる金製品はネックレスなどの装飾品が中心になっているが、かつてタイは自国通貨よりも信頼性が高かったこともあって、富裕層の中には金製品で資産を保有する人も少なくなかった。
タイ最古の金行とされる「タントーカン」は約130年の歴史がある
しかし、タイ人が「金」を資産として保有する時代はもう昔の話になりつつある。ご存知のように「金」は長期的な財産保全に最適な世界共通の現物資産だ。有史以来、人間が掘り出した「金」はおよそ15万トンとされる。これは競泳プール3杯分で、地球上には未発掘の分があと7万トン、プール1杯半程度の量しかない。「金」は限りある資源で、今後も資産価値がゼロになることはない。しかし、今、タイ人はほかの国の人々と同じように、金製品に興味がなくなりつつある。
タイ在住の欧米人投資コンサルタントはタイの金市場をこう見ている。
「タイの金製品にはフェイクのリスクがあります。それを考えたらあまりおすすめはしません。タイのほか、中国やインドなら流動性があって現物取引も可能ですが、日本や欧米ではゴールドの需要が低いのもおすすめしない理由です」
金相場は安定していて、キャピタルゲイン(売却したときの差益)を得にくい状態が続いている。同時に現状の金相場は高すぎた状態で推移している。相場は世界共通価格のため、安い国で「金」を買って高い国で売るということもできない。
ただ、タイでは「インゴット(延べ板、あるいは金地金)」なら無税で売買できる。日本なら消費税が売買それぞれにかかることから見れば、タイはやや安い。しかし、後述するが、タイで売買される「金」は世界市場では信頼性が低いため、タイ国外で売ることもまた難しいのだ。
そうは言いつつも、この欧米人コンサルは「金」の投資に否定的ではない。コモディティ(商品先物)としては価値があると思っているという。
「ETF(上場投資信託)のコモディティ投資に組み込むなどであればゴールドは考えられます。実際、私もゴールドファンドを顧客に紹介しますし、個人的資産運用のポートフォリオ(金融資産の組み合わせ)に0.5%くらいゴールドを入れています」
世界規模で見た場合に「金」はパラジウム(白金)などほかの貴金属と比較して買い手がつきやすいという。今後金相場はどう動くのか、この投資コンサルタントに尋ねた。
「おそらく今後金相場は下がっていくでしょう。世界的には好況ですから、今、ゴールドの現物を保有して運用することはおすすめしません。もし金相場が好転するとすれば、第3次世界大戦のような大きな戦争が始まった場合などです」
「金」は米ドルの為替変動とは逆に動き、一般的には「有事の金」といって戦争などが起こると需要が増えるとされる。しかし、タイで「金」の需要が少なくなった事情は案外、もっと単純であると複数の金行経営者が言っていた。