そんなこともあって、今では、スペインやラテンアメリカで日本式ストライキというと、単純に「
過剰に働くこと」というのが基本の定義になっている。
そして、それから派生して勤勉な日本人に見習って任務を徹底して遂行し、必要とあらば規定時間外でも任務を実行するという行為も日本式ストライキと見做されている。
つい最近の例では、6月まで政権を担っていたラホイ首相の政権下で、イサベル・ガルシア・テヘリナ農林水産相が3月8日の国際女性デーを前に「日本式ストライキで長時間働いて女性が能力あることを示そう」と議会で発言したことがあった。
彼女がこのような発言をしたのは、労働組合と女性活動協会が女性の権利を主張するストライキへの政府からの支援が少ないと批判したことを受けて、同相がそれに共鳴するような形で上記の発言となったものである。(参照:「
SER」)
そして、テヘリナ農林水産相のこの発言に対し、案の定早速反論が現れた。「農村地帯の女性連盟(Fademur)」が「農林水産相ということで、もっと農村地帯のことを身近に知っているべきはずだが、そうではないようで、気になる」と述べた上で、「農村地帯の女性は
毎日日本式ストライキを実践しているという現状を知ってもらいたい」と要望した。即ち、畑での仕事そして家事と規定されている以上の労働を毎日行っていると表明しているのである。(参照「
El Plural」)
更に、マドリード州政府からも批判の声があがってきた。州政府のリタ・マエストゥレ報道官である。彼女は「
日本式ストライキは毎日やっていることだ」と述べて、「仕事で10時間働いた後、帰宅して5時間働く女性を前に(農林水産相の発言は)敬意が不足している」と語った。(参照:「
Tele Madrid」)
日本人とまったく無関係なところで、「日本式」について物議を醸しているのはなんだか奇妙な気分になるが、日本人も勝手に陽気な人を指して「ラテン系」といったりするので、そんな感じのニュアンスなのだろう。
そんな「実在しない日本式ストライキ」だが、なんとスペインでは本当に実践した労働者がいたという。
アンダルシア地方の電子紙『
CORDOPOLIS』によれば、昨年6月にアンダルシア地方のコルドバ市の公園の清掃を担当している労働者がスタッフの不足を訴えて日本式ストライキを行ったというのだ。記事によれば、公園清掃のスタッフが、50~60人不足しており、長時間の労働を強いられているとして抗議。サグラダファミリアの公園に
勤務時間外に集まって清掃を始めた。その時に「長時間の労働は望まない、昇給も望まない、唯一望んでいるのはスタッフの増員だ」と言って抗議したそうだ。
また、かなり以前になるが、アンダルシア地方のヘレス市の市警察やバスク地方の州警察が労働条件の改善を求め
て勤務時間中に厳しく交通違反を取り締まって容赦なく罰金を科すことを実行するという日本式ストライキを実施した出来事があった。(参照:「(
Diario de Jeres」、「
EITB」)
1983年に『ABC』がセビーリャの宝石店が土曜日の午後に店を開けるという日本式ストライキを実施したことが記事になったこともある(※スペインでは最近は小売業者にも変化が現れて土曜や日曜に営業する店が非常に多くなっているが、以前は土日、特に日曜は会社と同様に閉店していた)。(参照:「
Maldito Bulo」)
この「ABC」の80年代の一件を報じた「
Maldito Bulo」によれば、企業コンサルタントのホセ・マヌエル・エルナンドが日本式ストライキを本場の日本で検証すべく訪日したが、スペイン人が考えているような日本式ストライキは実施されておらず、またそのような概念も日本には存在しないことを発見したという。
と、そこまではいいのだが、同記事の中ではなんと、「
日本でストライキをするということ自体が考えられないことである」という結論に達している。
日本人の勤勉さから生まれた都市伝説「日本式ストライキ」だが、当の日本ではつい最近経営者が労働時間の制限なく定額で好き放題に働かされる法律が可決したと知ったら、スペイン語圏では新しい言葉が生まれるかもしれない。
<文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。