史上最も重い「テルスター19V」を載せたファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX
イーロン・マスク氏率いる宇宙企業「スペースX」は2018年7月22日、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功。カナダの衛星通信会社テレサットの通信衛星「テルスター19V」を、予定どおりの軌道へ送り届けた。
テルスター19Vは
約7.1トンと、静止衛星としては過去最大の重さをもつ。しかしスペースXは、この重い衛星をわざと低い軌道に打ち上げるという、従来では考えられなかったことを行った。そこにはロケットのコストダウンにつながる、ある戦略と、テレサットの目論見がある。
テルスター19Vはカナダのテレサットが運用する通信衛星で、米国のスペース・システムズ/ロラールという大手衛星メーカーが製造した。地球の自転とほぼ同期して回る静止軌道に配置され、主にカナダなど北米大陸からカリブ海地域に向けて通信サービスを提供する。
テルスター19Vは打ち上げ時の質量が7.1トンもあり、これは過去に打ち上げられた静止衛星の中で最も重い。軍事衛星の中にはこれより重いものもある可能性はあるが、少なくとも既知の衛星の中では史上最重量である。
一方、ファルコン9は最大で8.3トンの静止衛星を打ち上げることができる。つまりフルパワーなら、7.1トンのテルスター19Vを打ち上げるのはわけない。
ところが今回の打ち上げでは、スペースXはわざとロケットの能力を抑えて打ち上げ、通常より低い軌道にテルスター19Vを投入した。なぜ、そんなことを行ったのだろうか。
テルスター19Vの想像図 (C) Telsat
スペースXがこうしたことを行ったのには、ロケットの第1段機体を絶対に回収するため、という理由がある。
同社のロケットは、第1段機体を地上や海上に着陸させ、回収し、メンテナンスを経てふたたび打ち上げる、「再使用」ができることでお馴染みである。同社はこれによりロケットの運用コストの低減を図っている。
ロケットを着陸させるためには、推進剤(燃料と酸化剤)が必要になる。つまりファルコン9をフルパワーで打ち上げると、推進剤が余らないので着陸ができない。そこで、わざと性能を抑えて打ち上げ、それによって余った推進剤を使い、ロケットを着陸させたのである。
スペースXがこんな変則的なことをしてまで機体を回収したい理由は、それがコストダウンにつながるからという一言に尽きる。
マスク氏によると、将来的にファルコン9の打ち上げコストは使い捨ての場合の10分の1ほど、約600~500万ドルにできると語る。しかし、その低コストを実現するには、機体を再使用し続けることが最も重要になる。
ファルコン9の第1段機体は、改修すれば100回の再使用ができるとされる。100回も再使用できる機体を、1回の打ち上げで捨ててしまうのはもったいない。なにより、この100回の再使用という数字が、10分の1のコストを達成する必要条件でもあることを考えれば、1回で使い捨てるのはコストダウンを阻害することにもなる。
だからこそ、あえて衛星を低い軌道に打ち上げることをしてまで、スペースXはファルコン9の第1段機体を回収したかったのである。