ところが皮肉なことに、EQが著しく低下すると言われているのも40代ごろから。
社会的経験がモノを言うEQは、年齢を重ねるにつれて自然と高まっていくものだと思われがちだが、人間の感情のコントロールには、前頭葉の働きが深くかかわっており、老化で脳の機能が落ち始めると、感情も乱れやすくなるのだ。無論、何もしなければEQは年を取るにつれ、その後もどんどん落ちていく。高齢者に「キレやすい」人が多いのもこのせいだ。
こうした中、多様性に富んだ部下や上司に挟まれ、背負う責任感も増えると、感情のコントロールはより一層難しくなる。それゆえ、世代においても役職においても中間にあたる40~50代は、他世代よりもEQを高める意識を持つ必要があるのだ。
高いEQが必要になる3つ目の理由が、「AIの台頭」だ。
我々の日常生活において、AIはすでに様々なシーンで実用化されており、同時に人間のワーキングフィールドをも侵食し始めている。2045年には「シンギュラリティ(AIが人間の知能を超えること)」に到達するというのは有名な話だ。
実際は、目まぐるしく変化する現代社会において、誰も30年後の状態を正確に言及することはできないが、1つ言えるのは、ルーティン化された人間の仕事は、今後少しずつAIに代替され、人間の仕事は、AIがタッチできない「人間同士の意思疎通」が必要な業務に絞られていくことだ。
昨年、アメリカの経営学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」で紹介された「The Rise of AI Makes Emotional Intelligence More Important(AI台頭はEQをより重要にさせる)」でも、「今後人間ができるAIにできないことは、今までの経験や習慣を利用すること」、「今後も現職を維持しようとするならば、人類の理解や動機付け、相互理解を追求する必要がある」、「説得力や社会的理解、共感などは、人間が人工知能と差別化できるスキルだ」と、今後のEQの重要性を説き、全米で話題となった。
AIが人間の仕事をするようになれば、人間1人ひとりのIQはビジネス面において、それほど重要なものではなくなってくる。つまり、人間がAIの時代を「労働者」として存在し続けるためには、IQよりもEQをより強化していく必要があるのだ。
インターネットの普及で、同じ空間にいてもメールやSNSで会話するようになった現代。一度は希薄になった人間と人間の繋がりは、今後、加速する職場の多様化や、AIの台頭で、再び強いものになっていく。その中で、自身や周りの感情を管理・利用できることは、これから先、最も必要とされる能力の1つになるに違いない。
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。