そんな緊張状態のなかで行われたストーンズのライブ。直前にはポーランド民主化運動の立役者となった元「連帯」の指導者レフ・ワレサ氏がミックに公開書簡を送っていたことも明らかになっている。
“ザ・ローリング・ストーンズの公演に先駆けて、レフ・ワレサ氏は英国のミュージシャンたちに対し、ポーランド国内の政治状況に目を向けるよう公開書簡を送った。彼の言葉が無視されることはなかった”(『Wyborcza』より)
また、同記事ではストーンズの1週間前に行われたオルタナロックの大御所バンド、パール・ジャムのライブでも政治的なメッセージが発信されていたことが紹介されている。
“ライブ中、スクリーンには女性ストライキのロゴが映し出された。それも『ポーチ』を演奏している最中にである。この曲は中絶合法化運動の非公式テーマソングとみなされている”
ポーランドでは’16年に「法と正義」が人工妊娠中絶を禁止する法案を成立させようとして、女性を中心とした大規模なデモが起きていた。パール・ジャムにストーンズと、立て続けに起きたライブ中の政治的メッセージについて、『Wyborcza』紙はこう評している。
“状況は変えられないし、有害な変革は止められないだろう。突破口にはならないはずだ。しかし、ミュージシャンたちによる発言は必要とされていたざわめきを起こし、文化人は強力な武器を手にしていることを示した。あとはそれを使おうとすればいいのだ”
日本ではいまだにミュージシャンが政治的な発言をすることに対して、批判の声は多い。ましてや、外国のアーティストが発するとなれば、「余計なお世話だ」と感じてしまう人もいるだろう。
「1週間で国内のミュージシャンを全部合わせたよりも、多くのことをポーランドの自由に対して成した」(『Wyborcza』紙)というのは言いすぎかもしれないが、こういったメッセージを受け止める度量の広さは見習うべきかもしれない。
W杯ではミックの応援したチームがことごとく敗れているが、はたしてポーランド政界ではそのジンクスがどう作用するのか? ロックやサッカーファンのみならず、政治ウォッチャーも「ミックの呪い」に要注目だ。
<取材・文・訳/林泰人>