BBC伊藤詩織氏告発番組が外国人女性に衝撃。「女性議員までが被害者を叩くのは異様」「日本人の助けは期待できない」の声も

『ガーディアン』など多くのメディアが『日本の秘められた恥』のレビュー記事を発表している

 イギリスのBBCで放送されたドキュメンタリー『日本の秘められた恥』が波紋を呼んでいる。ご存じの方も多いだろうが、この番組は強姦被害を訴えた伊藤詩織氏をテーマにしたもので、イギリスを中心とした海外メディアからは続々とレビューや番組内容を紹介する記事が発表されている。

110年間変わらなかった強姦罪

 元TBSワシントン支局長で『総理』(幻冬舎)などの著書で知られるジャーナリスト・山口敬之氏から準強姦の被害を被ったと訴えた伊藤詩織氏。二度の不起訴処分を経て現在は民事係争中だが、「#MeToo」ムーブメントと結びつけられ、その動向は海外からも注目されている。  そんななかBBCで公開されたドキュメンタリーについて、海外メディアはどのように報じているのか?『テレグラフ』の記事には、次のような記述が見られた。 “『法的手段に訴えるなら、そうすればいい』と彼(山口敬之氏)は答えた。『勝ち目はないですよ』。おそらく、彼の自信は安倍晋三首相との親密な関係に拠るものだろう。だが、日本の強姦被害者は全体的に不利な立場にある。警察官のうち女性は8%しかおらず、法律では110年間にわたって、被害者が身体的抵抗を示す必要があった”  法律的側面から日本の強姦被害を分析する記事はほかにも多く、『ガーディアン』にも同様の内容が。 “日本の強姦罪は1907年から改正されておらず、強姦罪の最低刑期は窃盗罪よりも短かった。日本をグローバルスタンダードにしている統計は、文化的、構造的に女性に対する性的暴行が深刻な問題として扱われていないことを示唆している”  ’17年まで110年間、強姦罪に抜本的な改革がなかったというのは驚きだ。はたしてどれだけの日本人がその事実を知っているだろう? “『日本の秘められた恥』はとても観るのが辛いドキュメンタリーである。痛ましく、苛立たしく、悲惨だ。最後には視聴者に、切迫した激動の感覚を与え、そして楽観的に考えれば、大きな文化的シフトの始まりを予感させる”  また、被害者の傷口に塩を塗るような仕組みにも言及している。「セカンドレイプ」という言葉は日本でもかなり認知されてきたが、強姦被害者を助けるどころか、より追いつめるような捜査やケアには問題があると言わざるを得ないと指摘している。 “(番組内で)伊藤氏は警察に行ったときに、何が起きたかを詳細に伝える。加害者に見立てた等身大の人形を使い、マットレスの上で事件時の状況を再現するよう言われ、男性警察官からはなぜ女性警察官に話したいのか説明するよう求められた。都内唯一の性暴力被害者の支援センターには、電話での相談を受けつけてもらえず、2時間かけて直接面談しに来るよう言われたという”  男性警察官を相手に被害状況を詳細に再現するというのは、相当な心理・肉体的なダメージがあるだろう。  一部には「日本を貶める番組だ」という意見もあるようだが、伊藤氏の事件を抜きにしても、性的暴行に対して社会がしっかり向き合っているとは言えない。被害を訴えても、それに対してバッシングが起きることも問題のひとつだ。 「男を誘うような服装をするのが悪い」 「勘違いさせるような言動をしていた」 「どうせ、あとから気が変わった」 「賠償金目当ての美人局」  悲しいかな、いずれも被害者が声を上げたときにネット上などで、よく見られる反応だ。こういった投稿は多かれ少なかれ、どこの国でも見受けられる。だが、公の場で大真面目に主張されることはまずありえない。ましてや政治家がそんなことを語るというのは、先進国では考えられない事態だ。  しかし、今回放送された番組では、そんな発言がなんと衆議院議員の口から飛び出しているのだ。 『デイリーメール』を筆頭に、多くのメディアは “ある人物”の発言に注目している。 “自民党所属の衆院議員で男女同権主義者を自称する杉田水脈氏は、伊藤氏の主張が嘘で、訴えられた男性側のほうが被害を被っていると語った。伊藤氏が訴えを公にすると、彼女のもとには脅迫がよせられ、ネット上では誹謗中傷を受けた”  これに対して、杉田氏は自身のブログ上で、番組の内容は「切り取り」であると主張している。たしかに、通常であればこんなことを衆院議員、しかも自分も同じ被害者になりかねない女性が言うことはまずありえない。 “伊藤詩織氏のこの事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます。「海外に日本の現状が誤って広がることをなんとか止めたい」インタビュアーの質問に応えながら、そればかり考えていましたが、そこはゴッソリ抜かして編集されたようで、とても残念に思います”(原文ママ)  本来、セクハラ事件全般についての番組だったはずが、蓋を開けてみれば伊藤氏ばかりがフォーカスされており、自分の発言も意図した形では使われなかった……。ということを伝えたいようだが、このブログを読むとそもそも問題となっている「伊藤氏に落ち度があった」という考えは一貫している。  杉田氏はツイッター上にも番組で発したコメントを自ら“補強”するような内容を投稿している。 “私は性犯罪は許せない!無理やり薬を飲まされたり、車に連れ込まれて強姦されるような事件はあってはならないし、犯人の刑罰はもっと重くするべきと考えています。 が、伊藤詩織氏の事件が、それらの理不尽な、被害者に全く落ち度がない強姦事件と同列に並べられていることに女性として怒りを感じます” “もし私が、「仕事が欲しいという目的で妻子ある男性と2人で食事にいき、大酒を飲んで意識をなくし、介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性」の母親だったなら、叱り飛ばします。「そんな女性に育てた覚えはない。恥ずかしい。情けない。もっと自分を大事にしなさい。」と。”  杉田氏は「もっと伊藤氏の“落ち度”を叩きたかったのに、当たり障りない部分しか使ってもらえなかった!」と怒っているのだろうか? こういったツイートを見る限り、番組内での発言が杉田氏の意図に反しているとは到底思えないのだが……。
次のページ
外国人女性からは「辛すぎて番組の話をしたくない」という声も
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会