認可の過程で生じた「改ざん疑惑」……十条駅西口再開発
さらに、この認可の過程において大きな問題点があったという。
「いま流行りの言葉で言えば“文書改ざん”にも通ずることが行われていたフシがあるんです」(岩波さん)
十条駅西口再開発の申請手続きにおいて、都市再開発法で規定されている土地所有者・借地権者の各々3分の2以上の同意が必要とされているが、その数字が認可直前にいきなり算定方法を巧妙に変更することによって水増しに近い手法で増やされていた可能性があるというのだ。
以下、榎本さんが東京に開示請求して得た資料として解説してくれた。
「平成28年1月、十条まちづくり担当課長が東京都都市整備局市街地整備部再開発課長に提出した、補助金申請のための『市街地再開発事業等(都市局所管)に係る平成28年度社会資本整備総合交付金等の事業調査について(回答)』では
土地所有者53人、借地権者26人、合計79人であった(本回答書は毎年提出され数年79人で報告されていた)ものが、平成29年5月組合設立認可申請時には
土地所有者65人、借地権者23人、合計88名と変更されている。1年の間に9人もの地権者が急増したことになります」
その背景が今回の裁判資料で明らかになったという。それは、複数の者が共有している土地を複数の者の共有のままその人数で分筆し、土地所有者の数を増加させていること、同様に共有の土地について筆ごとに地権者をカウントしていること等だ。すなわち、カウント方法を通例と変えて地権者数を増やした疑いがあるのだ。
また、開発に賛同した地権者にもメリットは薄いという。
「今回の西口再開発計画では数十人の地権者の土地が超高層マンションの床と交換されることになりますが、権利変換率は平均で96%となっており、場合によっては平均以下の地権者がでる恐れもある。また、仮に高層マンションのテナントで入ったとしても、商売を続けたいと望む店主は、管理費や設備維持費などで今までのような営業を続けていくのは不可能です」(伊藤さん)
このマンションの再開発には、計画段階から「再開発準備組合」として、新日鉄都市開発、東急不動産、戸田建設、前田建設工業、日本設計などの企業が名を連ねているという。
確かに、十条駅は埼京線により池袋や新宿、大崎やお台場方面(東京臨海高速鉄道りんかい線利用)へもアクセスがよく、徒歩7分ほどの東十条駅を使えば京浜東北線で上野、東京、品川、川崎、横浜へ一本で行けるという絶好の立地で、隣の赤羽同様、今後人気が上昇する可能性のあるエリアだ。
しかし、一部の地権者を除き、ほとんどの住民や商店主がメリットもなく、ましてや立ち退きすら迫られる一方で、再開発事業者を潤すだけの計画が多額の税金を注ぎ込んで行われるのは看過できないことだ。
今も、十条銀座商店街から一本入った『補助73号線』建設予定地には、金網で括られ「建設予定地」という無機質な看板が立てられた空き地とともに、建設反対を訴え、「測量などお断り」という張り紙を軒先に掲げる住居が混在している。
<取材・文・撮影/HBO取材班>