ここで問題となるのが「
立て替えておいた航空券代」である。例の代理人から、入金の気配は全くなかった。
「そのときお世話になったのが、日本で最大手の代理人事務所の方なのですが、そちらからいろいろとプレッシャーをかけてくださったおかげで、最終的に航空券代は戻ってきました。あいつが僕の実家まで謝りに来ましたよ」
地頭薗が受けたのは「
トライアウト」である。つまり、合格する可能性もあれば、不合格の可能性もある。そんなことは前々からわかりきった話なので、「ゾノ、お前不合格だから。明日日本に戻るぞ」と一言言えばそれで終わりの話なのである。カレン・ロバートを騙したときにも共通するこの男の特徴は、「虚言癖がある、そして結論を後々に引っ張る」ことである。そのためにカレン・ロバートは一年半のプレー期間を失い、地頭薗は航空券代に加えて大学卒業が危うくなるところだった。
「相手が信用できるかどうか、事前に自分できちんと調べて付き合うというのが大切なことだと思います。今なら、インターネットなどを使えば何でも直に調べて直に連絡もとれますからね」
ここから地頭薗は誰もが知りたくて聞けないプロサッカー選手のお金事情をあけすけに語り始めた。
「僕の場合で言うと、去年所属した
タイのチームでもらっていたのが
月給で約60万円で、これは完全に
税引き後の手取りです。それに
車と家がついていましたから、日本の契約で考えると1000万円以上の価値があったでしょうね。J2でも、これだけもらえる選手は本当に一握りですから、僕の場合は海外に出た方が全然よかったということです。まあ、一年半の契約が途中で切られたんですけどね。そこに至るまでを振り返ると、大学卒業後最初に入った
相模原では、働きながらサッカーをしていて、サッカーの収入はゼロでした。試合に出て勝った時だけ
勝利給みたいな感じで一万円出ましたけど、それも
源泉徴収されて9000円でした」
その後地頭薗は日本を飛び出す。
「2016年に所属した
シンガポールのチームでは、
月給20万円くらいでした。それに加えて
家と食事はついていました。そこからマレーシアのチームに移って
月給が45万円くらいになりました。そのときのオファーは、シンガポール時代に対戦したフランス人のGMと監督がマレーシアに移ったのですが、そのときに僕の名前が出てきて獲得してくれたようです。あれは結構ラッキーな流れでしたね」
ちょうど今ワールドカップが開催中で、全世界から注目を集めている裕福な選手たちの戦いが繰り広げられ、そこだけに光が当たる。しかし、光の裏には必ず影がある。大部分のサッカー選手は、かつての地頭薗のように「
サッカーで一銭も稼げない」という現実がある。日本でも、並みのJ2選手になるくらいなら、サラリーマンのほうがよほど安定していて稼ぎがいいかもしれないくらいである。
これまで筆者は何度となくタイを訪れ、タイサッカーの現状を報告してきた。次回は、地頭薗の目から見たマレーシアサッカーの現状を伝えていきたい。
【タカ大丸】
ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『
ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館)は12万部を突破。最新の訳書に「
ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。
雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。
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