ウリベ元大統領の人気の理由は、彼が当時勢いのあった武装テロ組織コロンビア革命軍(FARC)の撲滅に真っ向から取り組んだからである。ウリベの前のアンドレス・パストゥラナ大統領の時代には弱い政府に付け込んでFARCは勢力を拡大し、最大18000人の戦闘員を数えるまでになっていた。ウリベ政権下の8年間に、FARCとそれ以外の武装組織によって4000人が殺害され、彼自身も暗殺されそうになったことがあった。しかし、ウリベはそれにも屈せずにFARC撲滅に邁進したのだ。
コロンビアが武装テロ組織の前に虐げられていた時に、ウリベがそれと戦う姿の中に多くの国民は当時の置かれている窮状から抜け出せる可能性を見たという。その結果、いまでは「ウリベ主義」なる言葉も存在するほどだ。
実は、FARCとの和平交渉を成立させたフアン・マヌエル・サントス大統領もまた、ウリベの支援によって大統領になった人物だ。しかし彼は、FARC撲滅を目指し、和平交渉による恩赦やFARCのメンバーが議員になることを容認しなかったウリベと意見が対立し、政治的対立をするまでになったのだ。
結果的に、2人の大統領を生み出すことになったウリベ元大統領だが、すでに次期大統領になるイヴァン・ドゥケもサントスと同様にウリベを裏切るのではないかという憶測も出始めている。しかし、サントスの場合は彼の家系そのものが政治的に影響力の強い家系であるが故に国民的英雄でもあるウリベと対立しても政治生命が危ぶまれることはなかったが、ドゥケはウリベからの庇護なくしては政治的に何ももっていない人物である。それ故に、ウリベによって操られた大統領になる可能性はより高いのである。
ドゥケが大統領に就任して取り組まねばならない主要な問題として、FARCとの和平交渉の成立に修正を加えるのか否か、同じく武装組織民族解放軍(ELN)との交渉が残っている。また、ベネズエラに民主政治を取り戻させるとしてマドゥロ大統領を国際司法裁判所に提訴すると表明している。また麻薬の生産が最近増加している問題、経済のこの2~3年の低迷への取り組み。これらの案件が彼の政治力に委ねられることになるのである。
<文/白石和幸 Pic by
Neil Palmer / CIAT via flickr(CC BY-SA 2.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。