こうした政権の「移民政策ではない移民政策」の背景には、経済界も含め、外国人労働者を単なる「労働力」としてしか考えず、「人間を受け入れる」という考えが決定的に欠けているのが要因だ。
「外国人労働者を受け入れ、本当に活躍してもらいたければ、賃金労働条件を整えて、家族とともに幸せに働ける環境を提供しないといけない。日本に働きに来てもらう上で、家族帯同で来てくれればそこに生活が生まれ、教育が必要になりとコストも掛かります。しかし、それ以上に、家族とともに暮せば、堅実に一生懸命働けるし、配偶者も資格外活動許可を取れば週28時間までは働けるので、共働きだってできる。そして、新たな子供が日本で生まれ、消費も活発になるわけです。日本に働きに来る外国人を、『労働力』ではなく、きちんと『人』として責任を持って受け入れ、受け入れ後の環境整備や人権を確保し、日本社会との共生を図ることは、彼らのためだけではなく、日本にもメリットがあるわけです。それを、『労働力は欲しいけど、労働者受け入れに伴う負担は回避する』とはあまりに身勝手過ぎるでしょう。
もちろん、骨太の改革案にも、当初案では共生についても抽象的ではありますが『外国人の人権が護られるとともに、外国人が円滑に共生できるような社会の実現に向けて取り組んでいく』という文言があり、受け入れ環境についても検討していくような印象を受けました。しかし、最終的に閣議決定されたものには、その後に『法務省、厚生労働省、地方自治体等が連携の上、在留管理体制を強化し、不法・偽装滞在者や難民認定制度の濫用・誤用者対策等を推進する』という文言が記載されておりました。この文言には、外国人を治安対策の対象としてみる排外主義的な考え方を感じます。これなども排外主義的な傾向を持つ政権支持者への『言い訳』的に付与されたものだとしか思えません」
経済界からの要望で事実上の移民政策を明言した安倍政権だが、頑なに「移民ではない」と言い訳を続ける背景には、こうした安倍政権支持者の存在がある。
「もともと自民党は非熟練労働者の受け入れについては積極的な方向に傾いていました。それが第二次安倍政権となり安倍一強体制になってから、その支持者が移民政策を嫌うため、『移民ではない』と強弁しつつ、事実上の移民政策を進めるという二枚舌の状態を続けています。安倍政権はこのような『言い換え』による誤魔化しを多用しており、例えば現政権は『外国人労働者』とは言わず、『外国人材』などという呼称を多用しています。このへんも、従来の『外国人労働者』という言葉だと支持者に受け入れられないのを危惧して言い換えていると思います。
『骨太の方針』などと打ち出すのであれば、もうこういう二枚舌の姿勢をやめて、受け入れる外国人の人権にも配慮し、日本社会との共生を真剣に考えた、まともな移民政策について議論をすべき時期ではないでしょうか」
<取材・文/HBO編集部>