「他国軍に侵攻されても『非武装』を支持する、コスタリカの若者たちへの驚き」米国人映画監督語る

足立力也

コスタリカでも、貧富の差の拡大や治安の問題は深刻化している

マイケル・ドレリング共同監督

マイケル・ドレリング共同監督

足立:コスタリカの教科書を見ると、小学校1年生の社会で子どもたちの権利について教えていることがわかります。教育が、3世代に渡る平和主義者を育てているのではないでしょうか。日本では自分たちが持つ権利について、授業では教えません。 マシュー/マイケル:アメリカでも教えていませんよ(苦笑)。 マシュー:アメリカでは、大統領が国際法や人権を理解していない発言ばかりしています。 マイケル:政党にもよりますけどね。 足立:一方で、貧富の差の拡大や治安といった近年の課題は、年々深刻化しているように思います。 マシュー:この映画で歴史の解説役となって出演しているルイス・ギジェルモ・ソリス氏は、格差の縮小を訴えて大統領になりました(2014~2018)。しかし、大統領の与党は国会では多数派ではありませんでしたから、政策の実現が難しかったのだろうと思います。同じ家庭で父親と母親の意見が対立した時のようにです。 マイケル:新自由主義と社会民主主義、大きな政府と小さな政府、増税と減税など、対立する政治思想のぶつかり合いが激化していると思います。コスタリカだけではなく、米国や日本も含めてです。

次回作のテーマは、日本国憲法の「非戦という規範」!?

足立力也氏

「コスタリカの奇跡」の内容は、驚くほど筆者の著作『丸腰国家』(扶桑社新書)と重なる。日米の研究者が別々に研究した結果が重なったことで、その実証性も確認された

マイケル:ところで、日本もコスタリカも憲法に非武装条項を持っていますが、違いは何ですか? 足立:解釈ですね。日本の憲法は文章上、非常に厳格に非武装を規定していますが、解釈は文章ほど明確ではありません。一方、コスタリカの非武装条項は臨時的な武装の余地を残していますが、解釈は文章以上に厳格で、いかなる場合の武装も認められないというものです。それが現実の差に現れています。そういえば、日本を題材にした次回作も企画しているそうですが。 マシュー:多くの企業では「ミッション」(企業としての使命)を明文化し、それを広く提示しています。会社がそれに反することをした時、社員がそのミッションと照らし合わせて、会社としてやるべきことを議論します。  それと同様に、日本の憲法は「非戦という規範」の可能性を示しています。日本の人たちは、日本が武力紛争に関わろうとした時、憲法というビジョンを根拠に「戦争をやってはいけない」という議論を起こすことができるということです。  とはいっても、それがいつもうまくいくとは限りません。たとえば、米国の憲法では、宣戦布告には議会の承認が必要ですが、近年はそうなっていませんからね。いずれにしろ、日本は70年間戦争をしてきませんでした。そこに憲法という「規範」がどう関係しているのか。次回作ではその辺を映画で解き明かしたいと考えています。 足立:最後に、この映画を通じて訴えたかったことは何でしょうか。 マイケル:第一に、私たち人類は皆「いとこ」のようなものだということ。第二に、国際社会の中で私たちはどのように平和を推進していけるか考えていただきたいということ。第三に、その中でコスタリカ人たちはシンプルな暮らし方を提案していること。皆さんがそれぞれに平和を考えるきっかけになれば幸いです。 【映画『コスタリカの奇跡~積極的平和国家のつくり方~』】 1948年に常備軍を解体したコスタリカ。軍事予算をゼロにしたことで、無料の教育、無料の医療を実現し、環境のために国家予算を振り分けてきた。その結果、「地球幸福度指数(HPI)」2016の世界ランキングにおいて140か国中で世界一に輝いているのがコスタリカである。またラテンアメリカで最も安全とされている国でもある。この映画では、1948~1949年にかけて行われた軍隊廃止の流れを追いながら、コスタリカが教育、医療、環境にどのように投資して行ったのかを詳しく説明。世界がモデルにすべき中米コスタリカの、壮大で意欲的な国家建設プロジェクトを明らかにする。 上映情報は公式サイト(https://www.cinemo.info/movie_detail.html?ck=48)を参照のこと。 【マシュー・エディー】 南ユタ大学准教授(社会学博士)。2012年、博士論文のための調査で訪れたコスタリカでは若い世代でも非武装が圧倒的に支持されていることに驚き、同国の「大胆な平和」(原題:“A Bold Peace”)に関するドキュメンタリー映画化を発案。今回が監督・プロデューサーとしてのデビュー作。 【マイケル・ドレリング】 オレゴン大学教授(社会学博士)。エディー氏の博士論文を執筆当時の指導教官。環境社会学や平和学にも造詣が深く、ドキュメンタリー映像のプロデュース経験もあったことから、エディー氏から同映画の共同制作を持ちかけられた。 「丸腰国家」コスタリカ 次の戦略 第二回 <文・写真/足立力也> コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
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丸腰国家

コスタリカが中米という不安定な地域で軍隊を持たずにやってこられたのはなぜなのか?「理想」ではなく「現実」のもとに非武装を選択した丸腰国家コスタリカの実像に迫る。

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